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(なんで、神城がでてくるんだ)  全てが上手くいっていたのに、突然蒼生を(さら)われた。それは、ひとえに旭の想定が甘かったからに他ならない。  蒼生が姿を消したのは、3日前の夜だったのだが、旭が報告を受けたのは、その翌日のことだった。見張らせていた使用人から、蒼生が2人の男によって連れ去られたという情報が入ったのだ。 (ったく、使えない)  学校外では常に蒼生を監視するように、使用人には命じてあった。  それ以外の仕事はしなくていいとも言っておいたのに、通学と食料品の買い出しくらいで、ほとんど外出しない蒼生の監視は退屈だったのか? よくよく話を聞いてみれば、行動の全てを監視していたのは最初だけで、最近は、アパートの外で帰りを待ち、部屋に入るところを見て、問題なしと報告をあげていたらしい。  3日前は、夜になっても帰らないため、辺りいっぺんを探し回り、ようやく探し出した時には車に乗せられるところだった……というわけだ。しかも、発覚を恐れ一晩悩んでいたせいで、旭が報告を受けたのは、次の日になってからだった。  仕事をしくじった使用人だが、蒼生を連れ去った車のナンバーは控えており、警察関係者の協力で、翌日の夕方には行方が分かった。  けれど、その時点で神城は、保護者代理を名乗りでており、結果的に全てに於いて旭は後手に回ってしまった。     使用人は即座に解雇したものの、苛立つ心は抑えられない。 (ムカつく)  教室へと入った旭は、話しかけてくるクラスメイトと適当な会話をしながら、自分の行動を振り返る。  まず、蒼生を一人で帰したことが、あの日の大きな失敗だった。徒歩で10分ほどのアパートだから、あの状態でも帰れないことは無いだろう……と、甘く考えてしまったのだ。  監視もいるから、なにかあったら連絡がくるはずだった。しかも、持たせていたスマートフォンの位置情報は、学校を示したままだから、今度は忘れたことを理由に仕置きをしようと考えていた。   (蒼生は……俺のSubだ) 「好きだから、なんでも許すっのって違うと思う」 「でも、嫌われたくないし、私なんか――」  ふいに、女子生徒たちの会話が聞こえ、旭は眉根を僅かに寄せる。よくある恋愛相談だろうが、今はやけに耳についた。 (だから……取り戻す)    蒼生は旭のことが好きだ。だから、どう扱っても問題ない。どんな命令にも抗わないし、多少抵抗をしてみたところで、結局最後は旭の命令を悦んで受け入れる。そんな蒼生を気に入っているし、手放すつもりは全くなかった。 (……絶対に)  たとえ、一時的に保護されたとしても、自分が一言命令すれば、必ず蒼生は戻ってくる。そう……この時の旭は疑いもせずに信じていた。

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