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*** 「確かに……戸籍を見る必要ってあんまりないもんな。お父さんは妻帯者だけど、蒼生君は認知されてる。で、高校に入ってからの生活費、学費は全て支払ってきたし、就職するまでの費用は払うと言ってた」 「……全部?」  (うなず)く白石の表情に、この話は真実なのだ直感的に理解するが、うまく話を咀嚼(そしゃく)できない。  なにせ、幼少の頃から父親はいないと言われて育ったのだ。  母子家庭だったけれど、不自由だったことはない。母は働いていたけれど、きちんとご飯を作ってくれたし、学校行事には毎回参加してくれた。仲の良い親子だったと思う。  一度だけ、父の話を聞いてみたことがあるけれど、優しい母が困ったような表情をしたから、それ以来、一切口には出さなかった。  母親は、蒼生がSubだと分かったころから、帰宅しない日が増えていき、置き手紙ひとつで消えた時には、さすがにかなりのショックを受けた。  けれど、使うようにと残されていた母名義の通帳には、蒼生1人が暮らすためには十分すぎる金額が、定期的に振込まれていた。だから、連絡は取れないけれど、たぶん元気でいるのだろうと思っていた。 「そう。今、定期的に振り込まれているお金は、父親からのものだ」 「え、じゃあ、母は……」 「元気に暮らしてる。それは間違いない」 「そう……ですか」  困惑を表すように、蒼生の睫毛が細かく揺れる。今、蒼生の母親は、父親のもとにいるのだけれど、その情報を話すことは律に止められていた。  白石自身もその方がいいと思っているから、蒼生の思考が及ばない内に話を進めようとする。 「一年浪人することになるけど、大学へは行ったほうがいいんじゃないかな」 「……あの、母は……母は今、どこにいるんですか?」  淀みなく話す白石の声と、頼りなく震える蒼生の声が、ほとんど同時に部屋の空気を震わせた。  まずいと思った白石が、律の方へと視線を向ければ、頷いた律が立ち上がり、蒼生の背後へ移動する。   「確かに、気になるよね」  そして、蒼生の肩にそっと手を置き、その耳元へと囁きかけた。 「ごめんだけど、まだ話せないんだ。でも、一年後、蒼生が大学に入学したら話すよ。約束する。それでいいよね」  白石の座る目の前で、律が蒼生の細い体を背後から緩く抱きしめる。刹那、ヒクリと体を震わせた蒼生は、戸惑うように視線を彷徨わせ、白石と視線が絡んだ途端……恥ずかしそうに俯いた。

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