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蒼生が着ているオフホワイトのセーターは、たぶん律のものだろう。ぶかぶかで、まるでサイズが合っていないと、挨拶の時から思っていた。
首から肩、鎖骨あたりが露わになっているのだが、それが性的に見えるかと言えば、まったくそんなことはない。
むしろ、まだあどけなさが残る蒼生の痩せすぎた体は貧相で、強風が吹けば飛ばされそうだと心配になるくらいだった。
「蒼生、返事は?」
けれど、今、目の前で繰り広げられている律と蒼生のやりとりからは、チリチリとした官能の熱が感じられる。
律が首筋へと唇で触れたその瞬間、吐息を漏らした蒼生の肌は、薄紅へと染まっていき、「はい」と答える表情には、ほんの微 かだが明らかな艶が滲んでいた。
(たった二日でこれかよ)
白石自身はDomやSubではなく、分類としてはノーマルだ。
律とは長い付き合いだけれど、彼がDomとしてSubに接する場面を見たのは、今日が初めてのことだった。それでも、この二日ほどの短い期間で、蒼生が律を完全に信頼しきっているのが伝わってくる。
これまで、律の肩書きや容姿に魅 かれ、告白をしたSubを何人か見たけれど、その都度律は、「Subには興味が無い」と突き放し、その全てを拒絶していた。
恋愛に関しては、Sub以外で、ある程度好みに合えば、来るもの拒まず去るもの追わずといったスタンスだったのだが、恋人ができてもまるで続かない。
大抵は、あまりに素っ気ない律の態度に、不安を募らせて去っていく。
そんな律も、Domとしての欲求を発散したい時だけは、信頼できる会社から、相手を派遣してもらっていると言っていたのだが――。
(おいおい、嘘だろ?)
ドライな男と思っていただけに、聞いたこともない甘さを含む声音で話す律の姿は、白石にとって驚きだった。
「とりあえず、これまで通りの生活費を振り込むそうだ。他に必要な支出があれば、白石を通して伝えるって話になってる。わかった?」
「……わかりました」
蒼生の顎へと手を添えて、己 の方へと上向かせてから、まるで子供に言い聞かせるみたいに話す律の様子を見て、白石は思わず苦笑 を浮かべる。
それに答える蒼生の体は、まるで酒に酔ったみたいにフラフラと揺れていた。
「疲れたね。少しソファーで横になろう」
そう言いながら、蒼生を軽く抱き上げた律はソファーへと移動して、そっと体を横たえる。それから、甲斐甲斐しくも見える動作で膝掛けをかけ、再びこちらへ戻ってきた。
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