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「白石、蒼生に服を買いたいから、手配しておいて」
「わかった。ところで、本当にここに住むつもりか?」
「ああ。問題ないだろ」
「問題ってほどじゃないけど……都内にあるマンションの方が良くないか?」
ここは律の別荘で、交通状況にもよるけれど、都内にある会社から1時間以上はかかる。
仕事のことを考えると、都内に所有するマンションに住んでいたほうが、効率的だと思った白石が提案すれば、「不便になったら都内に行くよ」と答えた律は、冷めてしまったコーヒーを一口飲んで微笑んだ。
***
「体のどこにも問題はない。もう抑制剤を飲んでも大丈夫だろう」
目の前に座る医師から告げられ、蒼生は安堵の息を漏らした。
一緒に話を聞いていた律が「良かったな」と、声をかけてくる。それに「はい」と答えた蒼生は医師に一言礼を告げ、律と一緒に診察室から廊下へと出た。
窓の外へと視線をやれば、厚い雲に覆われた空からは今にも雪が降りそうだ。
「せっかく外出したし、昼は外で食べて帰ろう。蒼生は苦手な食べ物ある?」
「いいえ、特には無いです」
「じゃあ、和食と洋食ならどっちが好き?」
「えっと、どちらかといえば和食のほうが好きです」
「了解」
頭をふわりと撫でる手のひらに頬をすり寄せそうになるけれど、蒼生は咄嗟に我慢をする。ここは、完全予約制のクリニックで他の患者は見えないが、それでも数人のスタッフはいるはずだから、人前で律に甘えることに羞恥心 が働いた。
「久しぶりの外出で疲れただろ」
会計後、駐車場にある車に乗り込みシートベルトを締めたところで、律から声をかけられる。
「少しだけ……でも、もう大丈夫って言われたから、安心しました」
頬をわずかに緩めた蒼生が答えると、まるで猫をあやすみたいに顎の下を撫でられた。
律に助けられたあの日から、二週間が過ぎている。その間、何度か往診に来てくれたのが、今日診 てもらった医師だったのだが、最終的な検査をしなければならないため、今回は通院することになった。
「顔色もだいぶ良くなったし、Sub性も安定してる。抑制剤は様子を見ながらでいいかもね」
「いえ、あの……今日からでも飲みたいです。そろそろ、アパートに帰らないと……あんまり長い間、お世話になるわけにはいかないので」
運転している律の横顔をチラチラと見上げながら、この二週間考えていた言葉を蒼生は口にする。
本当に、律には迷惑をかけてしまった。
彼には仕事もあったはずなのに、長い時間を一緒に過ごしてくれたのだ。しかも、蒼生が少しでも不安定になれば、欲求を満たしてくれた。
「それに、病院代とか……お返ししないと」
これまでの往診や今日の通院……それに、抑制剤の代金も律が払ってくれている。今着ている洋服だって、律が用意したものだから、落ち着いたら返済しようと思っていた。
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