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 (わきま)えなければならない……と、蒼生は自分に言い聞かせる。そのためには、抑制剤を服用しなければならないから、家に帰ったらもう一度、律に頼もうと考えた。 「雪、積もりそうだね」 「ですね。外、寒そう」  わき道へと入った車は林道を奥へ進んでいく。少しすると、道の突き当たりに和風建築の立派な建物が見えてきた。 「ついた」  ガレージへと車を停めた律に頭を撫でられて、条件反射で蒼生は頬をすり寄せる。 「蒼生、少し口を開いて」 「ん……」  それがコマンドであると頭が理解するよりも、体が先に反応した。薄く開かれた唇の中に律の指が入ってくる。舌を絡めれば、「いい子だ」の声が聞こえ、クチュクチュと中をかき混ぜられた。 「ふ……うぅ」 「大丈夫。他に客はいないから、誰も見てない」  蒼生の不安を見透かしたように、律が声をかけてくる。安堵(あんど)に吐息を漏らした蒼生が、口腔内から生まれる愉悦に小さく体を震わせれば、「蒼生、抑制剤の管理は俺がしていい?」と、律が耳元で囁いた。 「あ……」 「嫌?」  弱い上顎を擦られるうち、思考がぼやけたものになる。律を落胆させたくないから、首を左右へ緩く振ると、「ありがとう」の声が聞こえて口から指が引き抜かれた。  *** 「ごちそうさまでした。すごく、美味しかったです」 「なら良かった」  これまで、ほとんど外食をしてこなかった蒼生にとって、今日の食事は驚くことの連続だった。  もちろん、知識が全くないわけではない。ただ、それほどテレビやネットなどを見ない生活をしていたから、ファーストフードやファミレスなどには行ったことがあったけれど、老舗料亭(しにせりょうてい)の知識はもっていなかった。 「蒼生はなにが一番好きだった?」 「ぜんぶ美味しかったです。一番っていうと悩みますが……すき焼きと、お刺身が……あと、プリンも……それに、この部屋も景色が良くて……すごいです」  次から次へと出てくる料理は綺麗に盛りつけられており、どれもがすごく美味しかった。広い和室は個室になっていて、窓の外には木々と海とが織り成す景色が広がっている。 「喜んでもらえてよかった。なら、ここは旅館にもなってるから、今日は泊まることにしよう」 「……え?」 「びっくりしてる。かわいい」  笑みを浮かべた律が立ち上がり、「おいで」と蒼生に手招きをしてくる。  ついていくと、食事をしていた和室の襖を開いた律は、その奥にある洋室の広いベッドルームと、隣にあるジャグジーを案内してくれた。  ジャグジーから外へと続くドアを開けば、そこには露天風呂まである。

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