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「蒼生、Stop 」
抑揚のない律の声音は冷ややかな響きを帯びており、鼓膜を揺らしたその瞬間……蒼生の体は硬直したように動かなくなる。
「あ……あ」
謝罪しようと口を開くが、意味を成さない声しか音にならなかった。そんな蒼生を一瞥 すると、「そのまま待ってろ」と言い残してから律は脱衣所を出て行ってしまう。一人残された蒼生の胸は、締めつけられるように痛んだ。
(僕が……うまくできないから……だ)
だから、律を怒らせてしまったのだ……と、思った蒼生は睫毛を臥せ、唇を噛んでこぼれそうになる涙を必死に我慢した。
途端、考えないようにしてきたことが、堰 をきったように頭の中を埋め尽くす。
これまでもずっとそうだった。
なにをやっても上手くいかない。
高校では、いつも旭を怒らせてばかりで、褒められたことは一度もなかった。
きっと母親も……Subの蒼生に愛想を尽かして出ていったのだ。
優しい律は褒めてくれるけれど、蒼生一人が悦くなるばかりで何かを返せたことがない。
(今日こそ……って、思った……けど)
律から舐めろと言われた時は驚いた。けれど、次の瞬間蒼生を満たした感情は……疑いようもない喜悦だった。
少しでも律が欲を発散できるなら、どんな命令 にも応えようと決意を固めたばかりなのに、自分ばかりが欲に溺れて結局上手くできなかった。
いくら優しい律だって、流石に呆れ、苛立ったのかもしれない。
(……頭……痛い)
頭の奥がズキズキと痛み、意識が不確かになっていく。眩暈はさらに酷くなり、急激に喉が渇き始めた。
「……蒼生、口を開け」
「う……うぅ」
ふいに、耳元で響いた律の声音に操られ、蒼生が薄く唇を開けば、ふわりとキスが降りてくる。
(いい匂い……律さん……のだ)
律に体を抱かれていると分かった刹那、歓喜に体がピクリと震えた。
「あ……あ」
「まだ意識はあるな。口移しするから、飲んで」
「……ふ、う……ん」
なにを言っているか理解する前に再び口を塞がれる。すると、次の瞬間口腔内へと水分が流れ込んできた。
「ん……んぅ」
必死にそれを嚥下すれば、褒めるように喉を撫でられる。
「上手。もう一回」
「あ……あ」
渇ききっていた蒼生は素直に口を開き、二度、三度、と口移しされる水分を無心に受け入れた。繰り返すうち、徐々に体が楽になり、消耗していた蒼生は意識をプツリと落としてしまうけれど――。
「悪い子だ」
そんな蒼生の鎖骨あたりへキスを落とした律は微笑み、ベッドルームへと移動するため力を失った細い体を抱き上げた。
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