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 *** 『大丈夫ですか?』  蒼生が旭と初めて言葉を交わしたのは、二年ほど前のことで、場所は学校の裏庭だった。その日は良く晴れていて、植えられている木蓮が綺麗な花を咲かせていた。 『……あ、僕?』  一人芝生に座り込み、膝を抱えてうずくまっている姿を見て、心配をしてくれたのだろう。軽く肩を叩かれた蒼生は、のろのろと顔を上げ……声の主を見て酷く驚いた。けれど一瞬の後に我へとかえり、『ありがとう。大丈夫だよ』と返事をした。  この時、蒼生は高校2年生になったばかり。母親のいない生活に慣れず、さらには抑制剤が体に合わなくなってしまったせいで、眩暈や吐き気をもよおすことが頻繁にあり、昼休みには人気のない裏庭で、一人休息をとっていた。 『でも、毎日ここにいますよね。大丈夫って顔でもないし、保健室に行った方がいい。俺、付き添います』 『ありがとう。でも、いつも、少し休めば楽になるから』   心配そうな表情で、こちらを見つめる彼の名前を知っている。  先日、新入生との対面式が行われた際、新入生代表として挨拶をした藤堂旭だ。有名企業の御曹司であり、トップ合格を果たした彼のいろいろな噂は、友達の少ない蒼生の耳にも入っていた。  旭は見た目も優れているから、クラスの女子は、彼女になりたいだとか、無理ならばせめてSNSで繋がりたいだとか、そんな話ばかりしている。  (なんで、こんなところに?)  校内で何度か見かける機会はあったけれど、いつも彼は何人もの友人達に囲まれていた。それがなぜ、1人で裏庭に来たのだろう?  素朴な疑問がわいてくるけれど、蒼生に尋ねることはできない。なぜなら、『わかりました』と答えた旭が隣に腰を下ろしたから。 『な、なんで?』 『ここに座っちゃダメでした?』 『いや、そんなことは……』  旭の意図が読みとれず、蒼生は声を詰まらせた。彼のような人物が、こんなことをする理由がまったく思い浮かばない。 『こんなに体調悪そうなの人、放っておけないですよ』  心配そうに告げてきた旭は、『勝手にやってることだから、俺のことは気にしないで』と続けるけれど、蒼生にしてみればそんなわけにもいかなかった。 (……性格もいいんだ)  いくら心配だからといっても、初対面の上級生に声をかけ、付き添おうとするなんて、自分ならばできないことだ。  その事だけで、面倒見の良い人物なんだというとこが伝わった。女子からの人気があるのも頷ける。 (どうしよう)  申し訳ないと思った蒼生は、とりあえずこの場を納めるために、『ありがとう。もう治ったから教室に戻るよ』と、告げながら立ち上がろうとした。  すると、『待ってください』と言った旭は蒼生の顔を覗き込み、『先輩、Subですよね』と尋ねてくる。

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