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「えっと、それはどういう……」
「俺はNormal だから、DomとかSubとかそういうのは知識でしか分からないけど、ここに来てから律と俺としか関わってないだろ。不自由だと思わない?」
蒼生を保護した経緯から、律が過保護になってしまうのは理解できる。けれど旭の立場上、蒼生を取り戻したいとしても、法に抵触するようなことはできないだろう。
藤堂家の後継者として、神城家とのトラブルだけは避けたい筈だ。
だから、少しの外出くらいは一人でさせてみてもいいのでは? と、何度か律に提案したが、のらりくらりとかわされる。
そんなわけで、蒼生がどう考えているかを知りたいのだと龍真は言った。
「それは……考えたことが無かったです。でも、不自由って思ったことは無いです」
彼の心配は伝わったが、蒼生はこれまで不自由さを感じたことが一度もない。言われてみれば、何をするにも律の許可が必要だが、疑問にすら思わなかった。
「むしろ、律さんに迷惑かけてるのは僕なんで……」
律は蒼生の安全のために職場から遠い場所に住み、抑制剤は体に負担がかかるからと……定期的にプレイをしてくれる。
そんな律が家から出るなと言うのなら、従うのは当然のことだ。
「なるほどな。あのさ、蒼生君は律のことが好きだろ。恋愛的な意味で」
「そんなことは……」
唐突に、心の中を見透かされ、蒼生は大きく目を見開いた。否定しようと口を開くが、上手く言葉を紡げない。心拍数が一気に上がり、頬がカッと熱くなった。
「顔を見れば分かるよ。まあ、この状況で好きになるなってほうが難しいよな」
久しぶりに会う龍真が気づくということは、うまく隠せていなかったのだろう。
「……保護してくれてるだけってことは、理解してます」
ただ、蒼生が一番辛い瞬間に、律と龍真は通りかかってしまっただけ。
それなのに、診察を受けさせてくれたし、蒼生も知らない実の父親と交渉までしてくれた。さらには、Sub性が安定しない蒼生の相手までしてくれている。
「迷惑にならないように、わきまえるつもりです。だから、律さんには言わないで……ください」
消え入るような小さな声しか出なかったけれど、龍真にはきちんと届いたようで、「参ったな」と呟いた彼は蒼生の頭をあやすようにトントンと叩いた。
「俺からは何も言わないけど、その気持ちは迷惑じゃないと思う。もし一年一緒にいて、蒼生君の気持ちが変わらないようなら、その時はちゃんと伝えたほうがいい」
「……はい」
蒼生は小さく頷くけれど、そんなことは出来ないだろうと分かっていた。
例え結果がどうであれ、律と自分では何もかもが釣り合わない。
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