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第7話
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雲の上を歩いているみたいだ。ふらつくし、それになんだか、ひどく寒い。
あれ……? いつの間に店を出たんだったっけ……。わからない。胸がムカムカして気持ちが悪い。きっと飲みすぎたんだ。
両脇から体を支えられてかろうじて歩いているけど、周りを見ても真っ暗で、どこにいるのか見当もつかない。
「ここ……どこですか」
しゃべると急に吐き気がこみ上げた。すぐそばで答える野太い声がする。その声に他の誰かが答え、下品な笑い声が起こる。
怖い。なんだろう。この人達は、僕をどこに連れて行こうとしてるんだろう。
僕を支えた両脇の男たちはなにやら楽しげにしゃべりながら、合間に僕にも話しかけてくる。わからないのは酔っているからじゃなくて、それが外国の言葉だからだ。
「っ……」
急に支えの手がはずされ、軽く背を突き飛ばされた。天地が逆さまになったみたいに目が回り、僕はその場に転んでしまう。背中のアスファルトが冷たくて凍えそうだ。
獣みたいな声が上がって、全身が総毛立った。手足に圧力がかかって身動きが取れなくなる。びっくりして開けた目に、のしかかってきた男の顔が映る。彫りの深い華やかな顔立ちは、明らかに日本人じゃない。
嫌だ、怖い……!
僕は必死で暴れる。でも相手の力は強すぎて、手も脚もびくともしない。男は子猫をあやすみたいな甘ったるい声で僕に話しかけてくる。不快なノイズみたいで、何を言ってるのかわからない。ただ怖い。
ビリビリ、という耳障りな音。シャツを引き裂かれたのかもしれない。冷たい風がじかに胸に当たって身がすくむ。助けを呼ぼうと開きかけた口に、布みたいなものを突っ込まれる。
別の手が、ウエストのあたりをまさぐっている。ベルトをはずそうとしているとわかり、背筋が粟立つ。必死で脚をバタつかせようとすると、頬に強烈な痛みを感じ目の奥に火花が散った。さっきまでとは全く違う、恫喝めいた低い声が浴びせられる。
嫌だ! 嫌だ! 怖い、助けて……!
誰か、助けて!
必死で差し伸べた手を、そっと握られた。優しく包まれ、温かい指で撫でられる。
「大丈夫……夢だから……」
さっきまで聞こえていた野卑な声と全然違う、綺麗な音楽みたいな声が耳元で聞こえる。
「全部夢ですから……安心して眠って……」
ああ、そうか……。
よかった。夢なんだ……。
優しい子守歌みたいなその声は、恐怖で高鳴る動悸を静めていってくれる。温かいものがそっと頬に触れ、ぬくもりが伝わる。
手を撫でてくれている指を必死で握ると倍の力で握り返してくれた。
「何も心配しないで、大丈夫……ここにいてあげるから」
暗がりの街も乱暴な獣達も消えてしまった。今はまるで、青い空にぽっかり浮かぶ雲の上にいるみたいだ。触れてくれているぬくもりに頬をすりつけるように甘えてみると、そのまま優しく撫でてくれた。
大きく柔らかな強い羽に守られ、包まれているようで、なんだかとても安心する。僕は強張っていた体の力を抜いて、安らかな眠りに落ちていった。
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