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第12話
リンリン、と可愛いベルの音と共にリックがレトロな扉を開く。
「いらっしゃいませ、お嬢……いえ、ご主人さま~!」
愛らしいアニメ声が店内に響いた。どうしよう。顔を上げられない。
「ハーイ、こんにちは」
にこやかに挨拶するリックに、
「きゃあ、なんて素敵な異国のご主人さま!」
と、アニメ声の店員さんがハートつきで答える。
「こちらのお店は男性はお断りですか?」
「とんでもないですぅ! 大歓迎ですよぉ。男の方もよくいらっしゃいますよ。彼女用とか、自分用とか」
自分用? 聞き間違えかと驚いて顔を上げると、本当にアニメから抜け出てきたようなドールメイクの可愛いメイドさんと目が合って、僕はほとんど固まってしまう。
「それでそれで、お客さまたちは彼女さん用ですか? それとも、ご自分用?」
両手を口に当てわくわくと、僕とリックを交互に見る店員嬢。一体何を期待しているのだろう。女の子の考えることはどうもわからない。
「う~ん、私が自分用だったら、それはまさにホラーですね」
「そ~んなことないですよぉ! 大人っぽいセクシーデザインもありますし~、すっごい美人の金髪美女に大変身ですよ。でもぉ……」
リックのジョークに大真面目に応じた店員嬢の、妙に熱烈な視線がいきなり僕に向けられた。思わず身を縮めリックの背に隠れる。
「こちらのお客さまの方がそそられますぅ! 自己主張しない適度に整った和風顔! 上品で中性的だし、男性にしては小柄で細身! 可愛いのも大人っぽいのもいけそう! ぜひ私にコーディネイトさせてもらえませんかっ?」
お世辞ではなく、どうやら本気で言っているみたいだ。
「や、えっ? ちょっと待って、僕別に、そ、そんなつもりじゃ……!」
とんでもなく予想外の展開に、僕はすでにパニック状態だ。両手を必死で顔の前で振り後ずさるけれど、伸びてきたリックの手に強引に肩を抱かれてしまう。
「はい、お任せします。彼にピッタリのをよろしくお願いしますね」
「っ……」
絶句し思わず見上げたリックは、いたずらっぽく微笑み片目をつぶってくる。
「ご安心を~! ご主人さまを引き立てる最高のお品をご用意してまいりますぅ!」
ノリノリで奥の方に引っ込んでいくメイド嬢を呆然と見送りながら、僕はさすがにちょっと非難のこもった目をリックに上げる。
「リ、リックっ、なに? どうするの?」
「ちょっとした遊びです。ここでしかできない体験、いいじゃありませんか?」
「ぼ、僕メイド服なんか、着ないからっ」
「どうして?」
「どうしてって! 26の男がメイドさんなんて、気持ち悪いだけでしょ? 大体そんなの、似合うわけないし……っ」
「いいえ、きっとよく似合いますよ」
しれっと言ってのけるその表情には、全く反省の色がない。それどころか瞳には『ちょっとしたお遊び』を超えた期待が含まれている気がして、僕はますますうろたえる。
「最初から言っているでしょう。君はとても可愛い。初めて君を見たとき、ジャパニーズビューティーそのものだと思いました。ノーブルでしとやか、それでいてキュートだ。君はもっと、自分に自信を持った方がいい」
とんでもなく持ち上げられ、僕はどんな顔をしたらいいのかわからず俯いてしまう。そこそこ整ってはいるけれど印象に残らず綺麗系とも言い切れないこの顔の、一体どこをそんなに気に入ってくれたのか理解に苦しむ。
そしてそれ以上に、同じ男に可愛いと言われて嫌がるどころか妙に嬉しくなってしまっている自分自身のことが、一番理解不能だ。
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