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第22話

 ドキン、と胸が高鳴った。そして今更ながら、今置かれている自分の状況に気づく。薄いタオルケットをかけられた下は、どうやら何一つ身に着けていない。全身ぐしょ濡れになってしまっていたのだからリックが脱がせてくれたのだろうけど、彼自身はちゃんと新しいジーンズとTシャツに着替えている。なんだかずるい。 「で、でもあの、みんなはっ……」 「皆さんは車で30分の場所にある美術館に行くと言っていました。私は君をみているからと辞退しましたが。皆さん、とても心配していましたよ」 「う、うそ……」  いてもいなくてもわからないくらいの存在感の僕が、いつのまにか消えたところで誰も気づかないと思っていた。リックはそんな僕の気持ちを読んだように優しく微笑んだ。 「君は自分が思っているよりもつまらない存在なんかじゃない。舞華も他の人達も、いつもは誘っても滅多につき合わない君が来てくれたことを喜んでいました。本当ですよ」  ほのかに胸が温かくなった。勇気を出して自分から心を開けば、人生もう少し生きやすくなるのかもしれない。なんだかそんなふうに思えた。 「とにかく、彼らはあと数時間は帰ってこない。ここには君のことをどうしようもなく欲しいと思っている私と、無防備なヌードで誘っている君だけしかいません。他に、何かすることが?」 「さ、誘っ……リ、リックがっ、脱がしたんじゃないかっ」  とんでもないことを言われ、僕はすっかりしどろもどろだ。きっとゆでだこ君も完敗なくらい、真っ赤になっているに違いない。 「だってどうせ脱がすことになるんだから、手間が省けるでしょう? ショートカットですよ」  しれっとウィンクして、身を守る鎧としてはあまりにも頼りないタオルケットを呆気なく引きはがす。 「あ……っ」  見られるのが恥ずかしくて縮めた体を、くるむように抱き締められた。 「大丈夫、怖がらないで。優しく、優しく抱いてあげる。絶対乱暴にはしないから。君は私の大事な宝石だ。傷付けたりしない」  歯の浮くようなセリフも王子さまレベルに素敵な彼が言うと、悔しいほど様になってしまう。  僕の縮こまって震える体を大きな手がゆっくり撫でてくれる。撫でられるごとに、余計な力が抜けて行く。同時に、敏感になった肌からこそばゆい気持ちよさが這い上がってきて、思わず身をよじる。  どうしよう。こんな感覚知らない。 「なんて綺麗な肌だ。滑らかで、シルクみたいな手触りだ。キスしてもいいね?」  いいなんて言ってないのに、熱い唇が首筋に寄せられ、思わず相手の広い背を抱いた。 「あっ……や、リック……っ」  軽く吸い上げられて声が上がる。自分でもびっくりするほど甘い声がこぼれて、僕はひどくうろたえてしまう。 「シン、可愛いよ。もっと感じて。私に声を聞かせて」  とろけそうな囁きと共に、鎖骨から胸にかけて少しきつく吸い上げられる。微かな痛みも彼が所有の証をつけてくれているのだと思うと、嬉しくてしょうがない。  繊細な指が、僕の胸の中心を執拗に撫でている。どうしてそんなところを触るのかわからなかったけれど、どうしたわけかすぐにそこがジンジンしてきてたまらなくなってくる。首を起こして触れられているところを見ると、ほんのりと赤く硬く尖ってきていてびっくりした。 「え……な、なんでこんなふうになるの? 変だよね」 「君のここが、私に触られたくてしょうがないと言っているんだよ」  リックはちょっと意地悪な笑みを浮かべ、見せつけるみたいにそこをこねたり摘まんだりしている。どうしよう。気持ちがいい。 「やっ、あぁ……ん、だめ……」  両方を唇で啄まれ、指先で弾かれるうちに、今度は僕の恥知らずな中心の方がどんどん反応してくる。人と比べて淡白だと思い込んでいた自分の知らなかった一面を見た気がして、僕はひどく混乱する。  好きな人に慈しんでもらえることがこんなに気持ちのいいものだなんて、思ってもみなかった。 「やぁ……っ」  脇から優しく下りていった手が高ぶった中心をそっと包んだ感触に、思わず声が出た。全身を天使の羽根でひと撫でされたみたいな甘い快感が走る。  リックの手は僕自身の形を確認するように、丹念に上下に擦り上げる。もうダメだと思った瞬間に、温かく柔らかいものに先端を含まれた。彼の男らしく凛々しい口に含まれたのだと知って、もう申し訳なさにどうしていいかわからなくなる。 「や、やっ……リック、そんなっ……あ、ん」  自分のサイズが人より小さめだなんて劣等感は、すっかり吹き飛んでしまう。 「あぁ、シン。君は本当にあらゆるところが可愛らしい。清楚な顔をしているくせに、こんなに淫らに感じて……たまらなく素敵だ」  体だけでなく頭の中まですっかり真っ赤になっる。そんな意地悪な言葉、一体どこで覚えたんだろう。とにかく、おばあさんじゃないことだけは確かだ。でもそんなエッチなことを言われて、さらに感じてきてしまう僕も本当に重症らしい。  唐突に高まって来る射精感から逃れようとするけれど、執拗に絡みついてくる舌の感覚に追い上げられて、もう完全に限界だ。 「あぁ、ん、リック、出ちゃうよ……!」  理性が引き留める間もなくこぼれてしまった恥ずかしい一言に、「いいよ」と素敵な低音が答えてくれた。促されるように吸い上げられて、頭の中がハレーションを起こす。気が遠くなるほどの快感の中で、リックが僕の吐き出したものを嚥下してくれる様子が薄く開いた目に映り、申し訳なさ以上に嬉しさにゾクゾクした。 「まだだよ、シン。もっと教えてあげる。どんなに私が君を愛しいと思っているか。君が、これからも不安にならないように、体の奥まで刻み込んであげるよ」  達した後の心地よい気だるさの中で、大好きな人の声を甘美な音楽みたいに聞きながら、僕は熱いキスを受け入れる。  不思議だ。全然怖くない。触れる唇や指先から、注がれる想いを感じるからかもしれない。むしろもっともっと触れて、嫌な記憶を上書きしてしまってほしい。そうしたら僕ももっともっと応えて、リックに喜んでもらえるようになれるから。    ベッドの上に膝立ちになったまま、見せつけるように服を脱ぎ捨てていくリックに陶然と見惚れる。なにか運動でもしているのか鍛えられた体は逞しく引き締まり、こんな胸にいつも平気で抱かれていたのかと思うと今さらながらドキドキする。  そしてボクサーショーツを下ろし飛び出したものの大きさに、僕は思わず目を見張ってしまった。髪の色と同じきらめく金髪に縁どられそそり立つそれは、ゆうに僕の倍くらいありそうで、受け入れることが急に心配になってくる。 「リ、リック、あの……」  情けなくかすれた僕の声から、不安を感じ取ってくれたのだろう。リックは大丈夫、というように頷き、優しく笑ってくれた。覆い被さってくる温かいぬくもりに、緊張が解けていく。伸ばされた指が後孔に触れ、思わず息を止めた。 「君の小さなここには、ちょっとつらいかもしれないね。でも、やめてあげられないよ。君の中に、私の形を覚えさせておきたい」

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