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第23話
そんなことを言って僕をさらにときめかせ、リックはあらかじめ用意してあったらしいチューブからジェル状のものを指先にひねり出し、僕のお尻に忍ばせる。
「あ……」
声が出てしまったのは冷たかったからだ。
「君のバックドアを開ける鍵になりたい。ここを、他の誰にも開けさせないで。私だけを招き入れて」
恥ずかしいくらい気障なこと言いながら、宥めるように入口をさすらっていた指がするりと中に入り込んだ。
「あんっ……」
女の子みたいな声が出てしまい、恥ずかしくて目をぎゅっと閉じる。ゆっくりと出し入れされる指は、頑なに閉ざされた扉を壊さないように大事に開いて行こうとしているみたいだ。緩やかな動きは悪くない感じで、異物感は次第になくなってくる。
それどころか、さっき見た雄雄しいライオンみたいな立派なものが、もうすぐ自分の中に入ってくるのだと思うと妙に興奮してきてしまい、また体が熱くなってきた。
「シン、怖くない?」
僕を気遣っての優しい問いに首を振った。思い切って目を開け、微笑みかけた。
「全然怖くないよ。だって、リックだから」
相手も微笑を返してくれると、言いようのない感動みたいなものが湧き上がってジンと目の奥が熱くなった。
ゆっくりと時間をかけて後ろの蕾を広げられ、中で長い指をかき回される。背筋に断続的に刺激が走り、恥ずかしいのにどんどんよくなってきてしまう。両脚をそっと抱え上げられたときには、もうほとんどじれったさすら感じていた。
抜かれた指の代わりに、入口に彼の濡れた先端が、これから入るよ、と言いたげに押し当てられ擦られる。わざと焦らすようなその仕草がたまらない。
「あ、ん、リック、はやく……っ」
思わず自分からせがんでしまって、あわてて口を押さえた。
「そんな積極的なシンも素敵だよ。君はもっと、オープンハートでいい」
嬉しそうな声が届いて、僕のバックドアを開ける鍵が少しずつ入ってきた。
「っ……」
たっぷりほぐしてもらったにもかかわらず、やっぱりその大きさは半端じゃない。圧迫感に息が止まり、体が自然ずり上がってしまう。両肩をリックの大きな手がそっと押さえてくれた。
「ああ、シン……君の中は温かいね。包み込まれるみたいだ。もっと……奥まで行かせて」
「や、ぁ……リック……っ」
愛しい塊が次第に分け入ってくる感覚を、全身で受け入れる。脚を思い切り開かれて、悦んで腰を揺らしている自分が今どんな恰好になっているのか想像すると、恥ずかしいというよりむしろ煽られ、それだけで中心が雫をこぼしてしまう。当然リックにもそれは見られていて、巧みな手に軽く扱かれたときには天井に響きそうなほどの声を上げてしまった。
体の緊張がそれで緩んだんだろう。リックが一気に腰を進めてくるのがわかった。
「いやっ、あぁ、リック……リック!」
手を伸ばして相手の広い背を掴まえた。リックが母国語で何か言ったけれど、もう恐怖感は全くなかった。むしろ、甘い官能に掠れた彼のその一言の意味を知りたいと思うだけだ。
逞しい熱棒は奥まで差し込まれ、動きを止めた。彼のかたちが、僕の中に刻まれる。どんなに遠く離れても、もう決して忘れられないくらいに深く。
遠く、と思って、こんなときなのに彼が明後日には帰国してしまうことを急に思い出した。ダメだと思う間もなく目が霞んでくる。
「泣かないで。大丈夫だから」
急な涙の意味を、リックは察してくれたのだろう。宥めるように僕の頬を何度も撫でてくれる。
「ほんの12時間飛行機に乗れば、すぐに会えるんだよ。休みのたびに会いに来る。そうだ、毎日ビデオ通話で話そう」
声を出すと嗚咽が漏れてしまいそうで、ただ頷いた。リックを信じたい。今のこの気持ちを信じたい。体は遠く離れたって、気持ちはいつも繋がっているんだって、そう信じたい。
「ずっと一緒にいられるように、何か方法を考えるから。私を信じて待っていてほしい。いいね?」
「ぼ、僕……僕、役所やめて、一緒にアメリカに行く!」
自分でも思ってもみなかった言葉が弾けた。
「飛行機、頑張って乗って、英語ももっと勉強して、アメリカに住む! だって、リックと離れたくない。一緒にいたいよっ」
ギリギリで堪えていた涙がドッと溢れ出た。体に収めた彼が大きさを増して、鼓動がトクンと音を立てる。
「シン……っ」
「あ、あっ……!」
思い切り引かれたものが突き入れられる感触に、下半身が焼けるほど熱くなる。とろけそうなほど優しくて、心地よい熱さだ。
「そんな可愛いことを言わないで。放したくなくなる。でも、いいんだよ。君は無理をしないで」
「やぁっ、あぁ……っ、はぁ、はぁ」
彼を欲しがって昂ぶる中心に絡まった指から与えられる刺激と、擦られる内部から染みていく未知の感覚に、僕はもう甘い息で喘ぐことしかできない。
「飛行機が怖いなら乗らなくていい。英語なんか勉強しなくていい。でも、一つだけ覚えてほしい言葉があるんだ。君だけに言うから、君も言って。私だけに」
激しく揺さぶられ、断続的に襲ってくる甘い波に翻弄されながら、僕はかろうじて声を絞り出す。
「なんて……?」
魔法を使える指に先端を揉みこまれ扱かれて、ギリギリまで堪えていた欲望が弾けた。アイ・ラブ・ユー、と、低い囁きが耳を甘く溶かした瞬間、体内の愛しい熱が達するのを感じ、幸福感で包まれる。
「アイ……」
全部言うことができないうちに、唇を塞がれた。体ごと宇宙に放り出されたみたいな快感に、意識が遠のいて行く。夢になって消えてしまわないかと怖くて背中に回した手に力を込めると、倍の力で抱き返されて安心感が全身を満たした。
「シン、愛してるよ」
僕も好き、という代わりに、自分からキスをした。彼が母国語でもう一度、さっきの言葉を繰り返す。絶対に忘れないように、僕はその素敵な響きをしっかりと胸に刻み込んだ。
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