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第4話
ドッドッと心臓が音を立てている。
「手伝ってくれるよね?」の言葉は俺にとって酷く重たい。
「な、も、もしかして、フィスト、ファックを……?」
「台本を見る限り可能性が無きにしも非ずでさ……。アドリブって書かれてるところがあるんだよね。この前千暁と撮ったぬるいSMを見て『いける』って思ったのかな?……わからないけど、期待されてるなら応えたいなと思いまして。」
「……え?浬さんのお尻に、こいつの拳が?は?拳処女だぞ、うちの浬は。」
「え、拳処女って何。ウケるんですけど」
「ウケない!」
だから、だからか!
だからこんなにSMチックな怪しいラブホに呼び出されたのか!
Xの形をした拘束具に、体を九十度に折った状態で拘束する台もある。
傍にはパドルや鞭なんかもあったりして、俺は顔を覆った。
この部屋に入った時、この前の仕返しをされるのかと思ってチビりそうになったことは黙っておく。
「拳処女でもなんでもいいけど、どうせ初めてなら彼氏にしてほしいじゃん?」
「……ん?」
「え?いや、練習したくても、他の人に頼めないでしょ。千暁のことは信頼してるし、彼氏だし。だから千暁にしか頼めないなって思って。」
「……俺にしか?」
「うん」
「俺のことが好きだから?」
「ん?うん。好きだよ」
「わかった」
「わあ、切り替えはやーい!」
やると決めたら勉強しなければ。
スマートフォンでやり方を検索する。
付け焼き刃だけれども、無知は何よりも怖いので、それよりはマシだと思って。
浬さんは既に勉強済みらしく、一緒に見ながら解説もしてくれた。
「中は綺麗にしてるよ。」
「どうする?体が自由に動かせる方が安心できるよね?その……撮影の時の状況が分からないから、体勢とか、どうすればいいのか……」
「ああ、なんか拘束されるらしいよ。目隠しもされて見えないんだって。怖いよね。台本読んだ感じだとこの拘束具が近いかなって思ってこの部屋にしたんだけど……」
「九十度!」
この、と言って彼が触ったのは九十度で体を固定する台だった。
「え、最初からこれでやる……?」
「んー、そうしようかな。練習で暴れて怪我するのも嫌だし……」
ノリノリな浬さんは色気も雰囲気もなく服を全て脱いで全裸になり、自分から台に寄りかかって「拘束してー」とニコニコしながら言う。
恐る恐る台についている手錠と足枷、それから腰周りを固定するベルトを彼に着けて、動けないことを確認した。
「あ、やば、ドキドキしてきた」
「ゆっくりするから、痛かったら言って」
「ん、苦しいって言うかもしれないけど、痛いって言うまでは止めなくていいから」
「……セーフワードは」
「『死んじゃう』!」
「……よし。」
まずはいつも通り、いや、それ以上に後孔を解す所から始める。
ローションを垂らして、そっと後孔の周りを撫でたあと、彼がフッと力を抜いた時に指を一本挿入した。
気持ちよくしてあげることは大切だけど、今は丁寧に解す方がいいだろうと思っていつもより気を使って中を弄る。
「んんっ、ん、ぁ、あ……」
「あ、でも、どこまで入れたらゴールなの?」
「っ、と、とりあえず、手首、まで」
「わかった」
二本目、三本目は難なく入り、浬さんも気持ちよさそうにしている。
四本目になると、少し苦しそうな声が聞こえはじめた。
「大丈夫?痛くない?」
「っん、痛く、ない、けど……っ」
「苦しい?」
「あっ、ぁ……」
頷く彼。すぐにローションを足して前立腺を触ってやり、ペニスも扱く。
少しでも気が紛れるようにすれば、気持ちよくなり出したのか、先走りをダラダラと零して「イクっ」と短く声を出し絶頂した。中がぎゅっと締まる。
「続けるよ」
「っ、ん」
またローションを足して、グルっと円を書いたあと、一度指を抜いて手を窄め指を五本とも入れた。
「っあ、おぉっ!」
彼が大きな声を出したけれど、セーフワードは聞こえない。そのまま掌まで挿入して馴染むまで待つ。
「っう、はぁ、はあ、入ったっ?」
「うん。掌まで」
「あ、うぅ……っ」
そのまま前立腺を刺激して、窄めていた手から力を抜く。
中で広がった質量に浬さんは驚いて体をビクつかせたけれど、拘束具が音を立てるだけ。
「もう少し奥行くよ」
「あっ、待って、怖い、待ってっ」
「ん」
暫く動かすのをやめて、反対の手で背中を撫でてあげると落ち着いたらしい。
「続けて」と言われ、ゆっくり手首まで入れると浬さんは深く息を吐いて静かに受け入れた。
「手首まで入ったよ」
「っん、そのまま、ゆっくり抜いて、また入れて」
言われたとおり、ゆっくり抜いてまたゆっくりと中に入れる。
それを繰り返すとだんだん抵抗が無くなり、代わりに出ていかないでと言うように中が吸い付くようになった。
「っあ、あっ、あー!やば、気持ちいい、すご……っ!」
「っ、きっつ……」
「ちあきっ、ちあ、あっ、あ……っおく、コンコン、してっ」
手首よりもう少し進んで結腸の入口に指先で触れる。浬さんは大きく背中を反らし、潮を噴いた。
相変わらず拘束具をガチャガチャ鳴らしていたけれど、抵抗できずにそこまでで終わる。
さすがに休ませた方がいいかと手を抜いて、喘ぐ彼に水を飲ませた。目から、鼻から、口から、ボタボタと体液をこぼす彼の顔をタオルで拭いてやり、虚ろな目をじっと見ながらキスをする。
彼のボロボロな姿のせいで、俺のちんこが爆発寸前だ。
「まだやる?」
「ぁ……も、いらない……っ」
「じゃあ……普通のセックスしてもいい?」
「ふつうの……?ぁ、あはは、千暁、すごい勃起してるぅ」
余裕が戻ったのか俺の股間を見て笑う彼。
「いいよ」と言うので拘束具を外してやり、備え付けのベッドに運んで下履きを脱いだ。
後孔に宛てがうと、すぐに吸い付いて、彼の腰を掴んで焦らすように挿入していく。
「ぅ、あ、あ……っや、っぱり、ちんちんのが、すき……っ」
「誰のちんちんが?」
「んっ、千暁のっ、千暁のちんちん、おっきくて気持ちいい……っ」
奥まで入れると、浬さんは強く俺に抱きついてきて、やっぱりさっきは怖かったのかな、なんて思いながら俺も抱きしめかえす。
動きにくいけれど、密着している肌が心地好くて、動かないまま彼にキスをした。
「ちゅ……ぁ、ん……」
「浬さんの中、トロトロ」
「っふ、ぁ、気持ちいいっ?」
「うん、すっごく」
彼を抱きしめたまま体を起こして体位を変え、対面座位で下から奥をコツコツと突く。
俺の肩に口をつけてくぐもった声を漏らす浬さん。ピチャピチャ、腹の辺りが濡れているが構わず律動を続けた。
それからは浬さんが満足するまでセックスを楽しんだわけだが、二人でベッドに寝転がっているとくふくふ笑いだした彼に「何、どうしたの」と聞いてみる。
「いやあ、実際フィストされるならあんな生温くないよなぁと思って。」
「……そりゃあそうでしょ。多分、ガンガンされちゃうよ。その仕事断った方がいいんじゃないですか」
「そうだなぁ……。普通にセックスした方が気持ちいいしなぁ。」
「フィストでもよさそうだったけど」
「よかったよ?潮噴いちゃったし。でもどっちかって言うと、……千暁としててもちょっと怖かった。だから初めての人だと気持ちよくなれない気がするな……。よーし!」
さっきまでセックスしていたのに、いきなり飛び起きた彼。さすがプロ。いや、俺だってプロだから少し悔しい。
そのまま代表に電話をかけている。
「お疲れ様です!あの、貰った台本のアドリブの部分についてなんですけど、フィストってするんですかね。──あ、やっぱりそんな感じなんだ。……いや、今千暁に手伝ってもらって挑戦してみたら思ってた以上に怖くて、多分気持ちよくもなれない気がするんです。──え?ぁ、いや、千暁にしてもらうのはよかったんですけど……え?えー……」
電話の途中、チラチラと俺を見る浬さんに嫌な予感がする。
「うーん。一回聞いてみます……。とにかくあの男優さんとは何の関係もできてないので、申し訳ないですけどお断りします。──はい。はーい。また連絡しまーす」
電話を切った彼は少し考える素振りをした後、俺を見てニッコリ笑う。
「千暁とならできるかって聞かれた」
「……はっ!?」
「俺はできるんだけど、千暁は?」
「いや、やりません!俺、拳よりちんこの方が浬さんのこと気持ちよくできるので!」
「あ、それは知ってるんだけど、一応ね。」
「えぇ……嫌です。そもそもSMそんなに好きじゃないし……。たまにいじめるくらいはいいですけど、どっちかって言うと俺、甘い雰囲気が好きなんですよ。甘やかして、デロデロな浬さんが見たい。」
「それも知ってるー!」
「うわっ!」
寝転んでいる俺に飛び込んできた彼を受け止める。
顔を見ればキスをされて、犬よろしく髪をわしゃわしゃ撫でられた。
「大好きな俺に酷いことしたくないもんね」
「……うん」
「大切にしてくれてるんだよね。ありがとね。代表には俺から伝えておくから、気にしないでね。」
浬さんの背中に腕を回して抱きしめる。
手をソロっと下げてお尻を揉めばわざとらしく「アンッ」と声を出した彼。
グルっと体勢を交換して彼に覆いかぶさり、唇を重ねて舌を絡めた。
「好きですよ、浬さん。」
「俺も千暁が好きだよ。」
にっこりと綺麗に微笑む彼に、胸がポカポカと温かくなった。
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