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ほろ酔いサイダー8
「ん? 飲んでみる?」
「お、おう……」
ジョッキを受け取り、恐る恐る口に近付けていく。いつもより少ない一口を入れる。独特の苦味が口から鼻へと広がっていき、そのまま俺の体内に入る。
「っ……」
俺は無言でジョッキを宏介に返した。まだまだ俺には理解できない味だった。
宏介が何かを話そうとしたそのとき、楽器の音が店中に響き渡った。見ると、店の端の方でこれから生演奏が始まるようだ。
俺たちを含めた客が静まり、全員の視線がそちらへ集まる。
ゆったりとした笛の音から始まり、徐々に静かになっていく。
一瞬無音の空間が広がると、すぐに全ての楽器が音を出して楽しげな演奏へと続いていく。
音楽に関する知識はほとんどないが、異国を思わせるような雰囲気が陽気にしている。踊っているような演奏に、思わず酒の入った瓶を持ちながら踊りだす客も現れる。
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