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ほろ酔いサイダー38

「あはは、やっぱりそうだよね。お揃いの何か付けちゃったり?」 「うるせー……。別に俺がやりたかったわけじゃねーよ」  俺からここへ行きたいと言ったことはあった。しかし、却下されることがほとんどで、行ったとしてもあまりいい反応はなかった。  あまりいい思い出ではないものを思い出し、早く忘れてしまおうと意識を別の方へと向ける。 「あ、あっちにベンチあるからそっち行こう」  宏介のその表情がやけに輝いて見えた。腕を引っ張られているような感覚になりながら、俺はベンチへと向かっていく。  いたって普通のベンチに、微妙な空間を作りつつも腰掛ける。俺は再び、海とその上にある大きな橋を眺める。  お互いに言葉が見つからず、ただ黙って目の前の風景を眺めている。先ほどまでいた場所からは、わずかに陽気な音楽が聞こえてくる。  あの日、久々に再会した日に行ったパブで流れていた音楽を思い出す。系統は違うようだが、どちらも酒に合った楽しい気分にさせる音楽だ。

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