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第3話

 頭の中に、熱く燃え立つ身体の奥に、自分の声が響いている。 〝あなたに……やっと会えた……〟 「ん……う……ん……」  甘い声を洩らしながら、僕と彼は固く抱き合い、幾度も幾度も唇を重ねる。  言葉を交すよりも、身体を重ねて、ただ愛し合いたい。  こんなことはおかしいのではないか? あり得ないのではないか?  頭の片隅にある理性はそう疑問を投げかけてくるが、本能がその理性を凌駕する。ただ衝動に駆られるままに、僕は彼を抱きしめ、彼は僕を抱きしめる。 「ああ……早くおまえに会いたかった」  指先からつま先まで、素肌を合わせる。黄昏時、薄紫の光の中。彼の銀色の瞳が妖しく光る。 「……きれいだ……」  彼のしなやかな指が、僕の胸を滑る。柔らかい肌をそっと撫で下ろされて、僕はこくりと喉を鳴らす。 「……ん……っ」  彼の指がぷくりと膨らんだ乳首に触れた。ゆっくりと優しく揉まれて、思わず声を上げてしまう。 「あ……あ……ん……っ」  コリコリに尖った先端を幾度も撫でられて、はしたなくお尻が浮き上がる。 「ああ……ん……っ」 「可愛い……声だ」  彼が少し笑う。僕のお尻を両手で掴み、柔らかく揉みながら、熱く疼く乳首を再びきゅっと強めに吸った。 「ああ……っ! あ……あ……ああ……ん……っ!」  ブリッジするように大きく反り返って、彼に胸を差し出す。  もっと……もっと……。 「だ……め……っ」  言葉だけは拒んでいるのに、身体は彼を求める。お尻から太股の内側へと撫でてくる彼の指に応えて、膝を立てて、大きく足を開く。  僕の身体は知っている。どうすれば、彼と愛し合えるか。どうすれば、彼を受け入れることができるか。どうすれば……彼と繋がることができるか。 「おまえがほしい」  命令することに慣れた人の優しくも拒むことを許さない口調に、僕の身体はとろけていく。あられもなく身体を開いて、彼を受け入れるためにひくつき始めている蕾に、無意識のうちに震える指を入れていく。 〝うそ……〟  そこがすでにあたたかく濡れそぼっていることに、僕は驚愕する。 「どうし……て……っ」 「……もう……こんなに溢れているのか……」  彼のしなやかに強い両腕が、僕の両脚を大きく左右に開く。そのまま、僕の腰を高く抱き上げて、そして。 「あ……ああ……っ!」  ほぼ真上から一気に突き入れられた。反射的に彼の背中に回した指に力が入り、彼の滑らかな背中に爪を立ててしまう。 「ああ……ん……っ!」  燃えるように熱い彼が体内深くに打ち込まれた。めりめりと身体が二つに裂けてしまいそうなくらいに大きくなったものが、信じられないくらい奥まで入ってくる。 「い……いや……っ……だめぇ……っ! あ……ああ……っ」 「ああ……おまえは……いい……」  彼の掠れた声がどきどきするくらい色めいて聞こえる。 「柔らかくて……熱くて……吸いつくようだ……」 「ああん……っ!」  ずくりと突かれて、僕は高い叫び声を上げてしまう。 「あ……っ、あ……っ、あ……っ!」  幾度も幾度も激しく突かれて、僕は叫び続ける。 「ああ……ん……っ! あ、ああ……んっ!」  泣き叫びながら、僕は彼に揺さぶられ続ける。 「い、いや……だめ……だめぇ……っ!」  拒む言葉と裏腹に、僕の身体は彼を身体の奥深くまで受け入れる。深々と彼を食み、さらに奥へ迎え入れようと、淫らに腰を蠢かす。 「あ……っ! あ……っ! 熱い……っ、あつ……い……っ」 「おまえを……壊してしまいそうだ……」  彼が少しだけ苦しそうにささやく。 「もう……我慢できそうに……ない……」 「ああ……ん……っ!」  思い切り奥まで押し込まれて、僕は大きく仰け反り、無意識のうちに両手にベッドのシーツを掴む。 「ああ……っ!」  溢れてしまいそうなほどたっぷりの蜜が体内に放たれる。 「こぼれ……る……っ」  身体がふっと浮きそうなほど強い快感の波に揺られている僕から、彼がゆっくりと身を退くその瞬間、僕は自分でもびっくりするくらい甘い声でつぶやいてしまっていた。 「行かない……で……」  乱れたシーツの上で、彼に抱きしめられる。 「……セナ」  彼が不規則に身体を震わせる僕の瞼にキスをする。 「我が運命の番……やっと……おまえに会えた」  暗闇の中で、僕はふっと目を開けた。  指一本動かすのもつらいくらいに、全身が軋むような痛みを訴えている。 「目が覚めたのか?」  何も見えない。本当に何も見えない闇の中。彼の声が耳元でささやいてくれた。こくりと頷きかけて、ああ、この闇では何も見えないなと思い直して、はいと言う。 「身体は大丈夫か?」  優しくしなやかな腕が、僕の裸の肩を抱き寄せてくれる。 「……少し……つらいです」  正直に言うと、彼は柔らかく笑って、僕の唇に軽くキスをしてくれた。 「無理をさせてしまった。おまえに夢中になった」  初めて会った人と、初めての行為をしてしまった。 「おまえは……まだ誰も知らなかったのだな」  彼の低く柔らかな声に、僕はこくりと頷いた。  この身体に誰かを受け入れたことはない。僕の反応でわかったのだろう。 「……すまなかった。おまえがほしくて……仕方がなかった。私の大切な……セナ」 「……リシャール」  僕は彼の胸に抱かれながら、そっと尋ねた。 「どうして、あなたは僕を……愛したのですか? 僕は……あなたの庭に迷い込んだ怪しい……者なのに……」 「セナ」  彼は優しく僕の瞼に指を触れた。滑らかな指先が僕の右の瞼を繰り返し撫でてくれる。 「私はおまえをずっと待っていた」 「僕を……? でも、僕は……」  僕は……ここは……? 「いずれ、わかる」  彼はそう一言だけ言って、僕を改めて腕の中に抱いてくれる。 「おまえの、この美しい瞳が何よりの証拠だ。おまえは私がずっと待っていた……たった一人の番だ」  僕の瞼に口づけて、彼はふっと深くため息をつく。 「もう少し眠ろう。朝は……まだ来ない」  薄青い月明かり。瞬く満天の星。低く流れる甘い花の香りに包まれて、僕は再び目を閉じる。  朝は……まだ来ないから。

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