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第二章・4
「推し。僕が、加賀さんの、推し……」
ぼうっと、彼の言葉を反芻する。
『私はね、篠原くんを推してるんだよ』
嬉しいな……。
「篠原くん、喜びを噛みしめてるところ悪いんだけど」
「あ、はい!」
五木が言うには、引っ越しは明後日。
午後に業者が来るので、荷物はそれまでにまとめておくように。
「本格的に気に入られたなぁ。僕も、仕事がやりやすいよ」
「あの。加賀さんって、どういう人なんですか?」
「ま、見ての通り第二性がアルファで。不動産業を手広くやってる人だよ」
この事務所が入っているビルも、加賀不動産の管理らしい。
「この街の、いや、この地方のボスだよ。彼は」
蓮は、少し怖くなってきた。
そんな凄い人が、僕なんかを気に入ってくれるなんて。
五木は蓮に背を向けると、少し舌を出した。
最も言わなくてはならないことは、避けたのだ。
(篠原くんが逃げ出しちゃうと、困るからね)
まあ、それに。
そのうち解ることだろうから。
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