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第三章・7
蓮の言葉は、巴の耳から離れなかった。
(明らかに、好意を持たれている!)
それは嬉しいことだが。
巴にとっても、願ってもないことだが。
「加賀さん?」
「え? ああ、美味しいよ」
「僕、黒毛和牛なんて、初めて食べました!」
「それは良かった」
他愛ない話などしながら、和やかに食事は進む。
食べ終えた後、部屋はすき焼きの香りでいっぱいだった。
「加賀さん、良かったらシャワー浴びてください。髪が臭いませんか?」
「ありがとう。そうするか」
何の気なしに、巴はバスルームに入った。
髪をシャワーで流しながら思うのは、蓮のことだ。
「素直に私に懐いてくれているが」
これまでも、そんな推しはいた。
私の好意を受け止め、喜んでくれる推したち。
だが、たった一つの私の秘密に耐えきれず、離れて行った。
「蓮は、どうだろう」
試すか、彼を。
せっかく親密になれたのに、早々に手放すのか?
だが、真実を隠したまま付き合うのも嫌な話だ。
巴は心を決めると、バスルームから蓮を呼んだ。
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