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第六章・3

 手には、あったかいポップコーンを持って。  冷たいジュースも。  初めての映画館で、蓮はドキドキしていた。  クッションの利いた座席に掛けて。  隣には、巴さんがいてくれて。 「僕、とっても嬉しいです」 「映画の内容に、満足してくれればいいが」  蓮が選んだ映画は、邦画のヒューマンドラマだった。 「アクションとか、ラブコメとか選べばよかったのに」  退屈かもしれないぞ、と巴は笑顔だ。 「僕、大きな音や激しい展開は、苦手なんです」  興行成績も人気もそこそこの作品だが、光る名作と評論家は語っていた。 (まず、間違いはないだろうが)  巴は蓮のことを気にかけながら、スクリーンに目をやった。  難病を抱えて心を閉ざした少年を、周囲の人々が温かく見守る。  そして彼は、その思いに応えて心を開き、見事病気も克服する。  そんな、心温まるストーリーだった。 (奇抜さは無いが、ていねいに創ってあるな)  巴は、涙を流す蓮に、そっとハンカチを渡した。

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