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第七章・3

 ヴァニラ・クリエイトの事務所に現れた、巴。  彼の笑顔に、五木は警戒した。 (何か企んでる、悪い笑顔だ!)  これまでにも、過去経験済みのその笑顔。  推しの写真集を出さないか、とか。  推しのプロモーションビデオを出さないか、とか。  推しのグッズを出さないか、とか!  とにかく巴は、過去の推したちに特別感を出させたがった。  自分の推しを、ナンバーワンにしたがった。  そして、そのたびに困らせられるのが五木なのだ。 (今回ばかりは、無茶は通させませんからね!)  背筋を伸ばして咳を一つする五木に、巴は笑顔を真顔に変えて言った。 「蓮で、映画を作らないか?」 「え、映画!?」 「金なら、いくらでも出す。億単位で構わない」  ちょっと待ってください、と五木はお茶を飲み、一息ついて抜けた声を出した。 「加賀さん。ちょっと、今度ばかりは。話が大きすぎますよ?」 「私は本気だ」  その眼差しは、鋭くこちらを睨んでいた。

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