66 / 80

第八章・6

 高級料亭の一室に、巴は尾崎を呼び出した。 『加賀さんのことは、スポンサーだ、とだけ伝えてあります』 「それでいい。ありがとう、五木」 『では、うまくいくことを祈ってます』 「任せてくれ」  電話を切ってしばらくすると、尾崎が部屋へ通されてきた。  高齢だが、しゃんとした姿勢。  整った髪に、洒落たスーツ。  この国が誇る名優だけあって、輝きがあった。 「お呼び立てして申し訳ございません」 「いいえ。私の方こそ、我がままを言い出しまして」  二人で座り、巴は名刺を差し出した。 「加賀不動産の、加賀 巴と申します」  巴の自己紹介に、尾崎の眉がぴくりと上がった。 (やはり年配の方は、加賀組のことをご存じか)  先々代、先代と、名をとどろかせた組だ。  心象が悪くなったかな、と巴は恐れた。

ともだちにシェアしよう!