67 / 80

第八章・7

「違約金を払い、今回の映画からは手を引こうと思っています」 「あなたほどの方が、作品を途中で投げ出すとは。解せません」  尾崎は寂し気に微笑むと、うなずいた。 「怖いのですよ。笑ってください」 「怖い?」 「あの新人、どんどん成長しています。シーンごとに、輝きを増していく」  私はそれが怖い、と尾崎は息を吐いた。 「篠原くんは、この映画で私を追い抜く。きっと」  ダブル主演とは言いながら、脚光を浴びるのは篠原くんだ。 「あなたが脇役に回る、とでも? それは、無い。天下の尾崎さんが、何を気弱な」 「こんなことを打ち明けるのは、あなたが加賀さんだから、ですよ」 「私が? 初対面の私に、何か?」 「加賀 国英(かが くにえい)とは、親しくお付き合いさせてもらっていました」  その言葉に、巴は目を円くした。  国英は、巴の祖父だ。 「私の祖父と?」 「楽しかったなぁ、あの頃は」  昔の芸能界は、裏で極道とのつながりを持つ人間も大勢いた。  尾崎も、その一人だったのだ。

ともだちにシェアしよう!