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第八章・7
「違約金を払い、今回の映画からは手を引こうと思っています」
「あなたほどの方が、作品を途中で投げ出すとは。解せません」
尾崎は寂し気に微笑むと、うなずいた。
「怖いのですよ。笑ってください」
「怖い?」
「あの新人、どんどん成長しています。シーンごとに、輝きを増していく」
私はそれが怖い、と尾崎は息を吐いた。
「篠原くんは、この映画で私を追い抜く。きっと」
ダブル主演とは言いながら、脚光を浴びるのは篠原くんだ。
「あなたが脇役に回る、とでも? それは、無い。天下の尾崎さんが、何を気弱な」
「こんなことを打ち明けるのは、あなたが加賀さんだから、ですよ」
「私が? 初対面の私に、何か?」
「加賀 国英(かが くにえい)とは、親しくお付き合いさせてもらっていました」
その言葉に、巴は目を円くした。
国英は、巴の祖父だ。
「私の祖父と?」
「楽しかったなぁ、あの頃は」
昔の芸能界は、裏で極道とのつながりを持つ人間も大勢いた。
尾崎も、その一人だったのだ。
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