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第6話 風呂の中で

 ひとり暮らしにしてはやたら広いバスルーム。  まだ何かされるのかとびくびくしていたが、そんなことはなく普通に身体を洗われ、湯船の中に放り込まれた。  正直内心ほっとした。  これ以上なにかされたら身がもたねえし。  バスルームのコントロールパネルの時間を見る。  時刻はすでに十六時を過ぎていた。そりゃ、太陽も傾き始めるか。  湯船の中から、シャワーを浴びている千早をまじまじと見る。  俺より背が高い、百八十くらいだっけな。  子供の頃からプールに通っていたとかで、筋肉質な体つきをしている。  その中央にあるペニスに自然と目がいくが、修学旅行だとかで何度か目にしているはずなのに、異質なものに思えた。  さっきまでアレが俺の中に入っていた。  そう思うと身体中をめぐる血液が、一気に沸騰していくような気がして、俺は思わず目を反らした。  千早は友達だ。  高校から同じ時間を過ごしてきた友人。  アルファとかオメガとか、そんなの関係なく過ごしていたはずなのに。  なんでこんなことになったんだろう?   「琳太郎、どうしたんだ? そっぽ向いた」  声が降ってきてそして、千早も湯船に入ってくる。  ざばーん、と湯が溢れ膝を抱える俺を、背中から千早が抱きしめてきた。 「もうちょっと、抱き心地いいといいんだけどな」 「はっ? お前、無理矢理ここに俺を連れ込んでこんなことして何言ってんの、それ?」  振り返り抗議の声を上げると、千早は不思議そうな顔をした。 「お前が言ったんだろ? 何でもするって」  え、言ったっけ? 何でもするなんて言いましたっけ? 「いや、なんでもするって言ったとしてもだよ、セックスは含めねーだろ、普通は!」 「んー……、そうかな」  上に視線を向けて首を傾げる千早。  やべえこいつ。  俺とこんなに感覚違いましたっけ?  こいつと知り合い三年以上。俺の知らない千早が今、目の前にいる。  いくらなんでも、友達と関係もとうとか思うか?  思わねえよな、うん、思わない。  でも、俺は、千早に抱かれた。  千早に、偽物の番でいることを要求されそして、俺はそれを拒んでいない。  だって拒んだら、千早は宮田に何をするのかわからないから。  宮田藍。俺の友人で、オメガで、千早の運命の番。  本来なら運命の番は、相手を拒絶なんてできないらしいが、なぜか宮田は千早を拒絶した。  宮田が発情期になり、匂いに惹かれたらしい千早が宮田に手を出しかけたところを助けた結果がこれだ。  発情期のオメガがもし、アルファに抱かれたら、妊娠の可能性が高くなる。  オメガは発情期しか妊娠できない分、一般の女性より妊娠の確率が高いらしい。故に、オメガの発情期の間はやりまくるらしいからな……  え、俺、どうなるの?  アルファもオメガも、互いに引き寄せあうフェロモンを出すらしいが、ベータである俺には何にもわからない。  アルファのフェロモンはオメガをその気にさせるだとかネットに書いてあったけど、俺はそんなのわかるわけもない。 「千早」 「何」 「お前、本気?」 「何が」 「その……番になれって話」  千早に抱きしめられたまま、俺は俯き水面を見つめる。 「当たり前だろう?」  と言い、千早は俺の耳たぶを食む。 「あ……」  思わず声が漏れ俺は、右手で口を塞いだ。  なんだ今の声、本当に俺の声か? 「俺の邪魔をしたのはお前だろう? それに、宮田藍は俺を拒絶している。何でかわからないが、それだけ強い意志があるって事だろう。でも俺は、宮田の匂いに狂う。あいつが欲しくてたまらないし、今にでも閉じ込めて犯して、孕ませたい。でもそれは、やってはいけないことくらいわかっているからな。だからお前が、俺の番になればいい」  狂ってる。  その発想はおかしいだろう?  そう思うのに、俺は何も言えなかった。  だた、普通の大学生活をすごしたいと望む宮田。  運命の相手を捜している、と言っていた千早。  俺に、ふたりの夢を否定することなどできないし、邪魔することもできない。  なら。  大学を卒業するまで、俺は千早の偽物の番を演じるしかない。  千早が犯罪を犯さないためにも。  宮田が、当たり前の生活を送るためにも。  俺はぎゅっと、拳を握る。 「琳太郎」 「な、なんだよ」  千早は俺の耳元に唇を近づけ、囁くように言った。 「今夜は泊れ。いいな? 後ろ、拡張してやるから」  拒絶など許しはしない。  そんな声音で千早は言い、俺は頷くことしかできなかった。

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