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第7話 風呂から出たあと

 風呂から出た後。  着替えがないので俺は、千早の服を借りることになった。  若干サイズの大きい黒いスウェットの上下を着て、胸に俺でも知っている高級ブランドのマークがある事に気が付き内心震えた。  こんな高いもの、ぽん、と貸すか?  俺は、身体が怠すぎて動くことなどできず、リビングのソファーに寝転がっていた。  帰りたい気持ちはある。  けれど、帰る気力はなかった。  さっき、千早は泊まるように言ったしな……  っていうか、腰が痛すぎて動けねーよ。  とはいえ、俺は親に連絡しないとまずいので、怠い身体を押してスマホを開いた。  予想通りと言うか、宮田からいくつかメッセージが来ていた。   『講義来なかったけど大丈夫?』 『ごめん、逃げる様なことして……結城、どこにいるの?』 『ねえ、大丈夫????』  最後は涙目のスタンプが来ていた。  大丈夫かと聞かれたら大丈夫じゃないけれど。  俺はゆっくりとメッセージを入力した。 『大丈夫だよ。ちょっと、千早が体調悪くて付き添って、講義出られなかった。後で内容教えろよ』  と、入力してメッセージを送る。  すぐに既読が付き、 『わかった!』  と、返信が来た。  宮田藍。  千早の運命の相手で、俺の友人。  宮田は、普通の大学生活を送ることを望み、千早を拒絶している。  普通、運命の番なら、相手を拒絶なんてできないらしいが、なぜか宮田は千早を受け入れていない。  その理由は何だろう?  宮田の意思が強すぎるからだろうか?  その謎は、今の所不明なままだ。  そして俺は、連絡しないと親がうるさいので、軽くメッセージを送っておく。  親は千早の事を知っているので、何も疑ってくることもなく、 「はーい♪」  なんて、返事を返してきた。  まさか、息子が友人に犯されたなんて思ってないよなあ……  当たり前だよなあ……母親だって、アルファとかオメガとか、そういうのとは無縁だもんなあ……  俺は、ソファーに寝転がったまま、大きく息を吐く。  俺、このままここに泊まるのか……  何されるのかな?  穴を拡げるとか言っていたっけ?  でもそれってどうやるんだ……?   「琳太郎」  不意に名前を呼ばれ、俺は、思わず身体を震わせ、スマホを握りしめたまま声がした方を見た。  ソファーの後ろに立ち、千早が俺を覗き込んでいる。 「え? あ、あ、な、何」  スマホを抱きしめて言うと、千早は真顔で言った。 「夕飯、何食える?」  夕飯。  そうか、さっき風呂場で見たとき、十六時、過ぎてたもんな……  言われて始めて、俺の腹が空腹を訴える。 「選択肢あるの?」 「宅配頼もうと思って。お前、アレルギーとか好き嫌いとかないよな?」 「うん、ないけど……何頼むの?」 「うーん、まだ決めてない」  と言い、千早はタブレットを見せてきた。  今時、どんな食べ物も持って来てもらえるもんなあ……  何が食べられるかと聞かれると、正直困ってしまう。  腹は減っている。  だけど何が食えるかと言ったら…… 「肉」  俺が呟くと、千早は首を傾げた。 「肉?」 「ハンバーグ。ハンバーグ喰いたい」 「わかった」  千早は、にこり、と笑い、タブレットを操作した。  十九時前に夕飯が届き、それを食べ終えた頃。  俺はソファーの背もたれに身体を預け、ぼんやりとテレビを見ていた。  流れているのはCSの音楽チャンネル。  なんとなく聞いたことある音楽が、大きなテレビから流れてくる。  眠い。  超眠い。  時間はまだ、二十時前だろう。  夜は長い。  となると、このまま寝かせてもらえるとは思えなかった。  このあと、千早は何をするんだろうか?  彼はといえば、夕食後からずっと、タブレットでなにか作業をしているようだった。  覗き込むわけにもいかず、俺はただ、ずっとテレビ画面を見つめていた。   「琳太郎」  うとうとしていたところに名を呼ばれ、驚いて俺はきょろきょろと辺りを見回してしまう。  あぁ、そうだ。  ここは、千早の家だっけ?  ソファーの隣に腰かける千早は、俺の顔を驚いた様子で見つめて言った。 「寝てた?」 「あ……うん、たぶん……」  そう答え、俺は大きく欠伸をする。 「俺の前で寝るとか、いい度胸だな」  そう言って、千早は俺の肩に手を伸ばす。  そして、俺の身体を引き寄せた後、唇を重ねてきた。   「ン……」  舌は入ってこず、触れるだけのキスを繰り返してくる。  それだけで、俺の身体の中心に熱がたまっていった。  なんだよこれ、俺の身体、おかしくなった?  口づけの後、千早は俺の顔を見つめ、にやりと笑って言った。 「言っただろ? 後ろ、拡張しないとなあ?」  その言葉を聞き、俺は、ごくり、と息をのんだ。  

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