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第14話 ひとりの部屋で
構内を移動しながら俺はきょろきょろと視線を動かす。
千早は俺たちとは学部が違う。
使う校舎も基本違うため、食堂くらいでしか顔を合わせないからいるわけがないのに。
無意識に俺は、千早の姿を探してしまっていた。
そのことに気が付き、慌てて俺は宮田の方へと視線を向けて尋ねた。
「なあ宮田」
「何?」
「あの、金曜日、薬がって言ってたけど、アレは大丈夫なのか?」
金曜日、宮田は発情期になったと言っていた。それが千早に見つかり、宮田はあいつに連れて行かれそうになったわけだが。
発情期は超辛いものらしいが、宮田からはそんな感じがしない。
確か一週間位続くと聞いた。
だからまだ宮田は発情期まっただなかなはずではないだろうか。
「あぁ、あれね。薬飲んでるから今日は大丈夫だよ。一昨日と昨日はキツくて家で寝てたけど、ピーク過ぎちゃえば薬で抑えられるから」
「ならよかった」
……それならまた、あいつに襲われることはない……のか?
そもそも千早は、宮田に手を出さないと俺と約束したし、ふたりが顔を合わせる機会などほぼないはずだ。
食堂以外にカフェテラスやファストフードもあるから、余程の事がない限り千早と会うことはないだろう。
夕方からのバイトを終え、俺は小雨が降る中家へと急いだ。
時刻は二十二時近く。
家帰って飯食って、風呂入ったらあっという間に二十三時になってしまった。
俺は、自室に音楽を流し、隠してあった玩具を取り出す。
明るいのは嫌だから、ベッド横のスタンドだけ点けて。
千早に押し付けられた玩具は、この間突っ込まれたやつよりもやや大きなものだった。
ベッドに座り、俺はペニスの形をしたその玩具――ディルドを見つめた。
準備はできている。
ご丁寧に、千早はローションやコンドームまで渡してきやがった。なので俺はとりあえずそのディルドにコンドームを被せる。
なんか間抜けな光景だな、これ。
『自分でやれよ』
と、確かに言われたけれど。
本当に俺、自分でやんの?
考えるだけで身体中の血液が沸騰しそうだ。
その時、スマホがメッセージの受信を知らせる。
誰だよこんな時に。
妙にドキドキしながら、俺はケーブルにさしたままのスマホを手に取り、メッセージを確認する。
表示された名前に、俺の心臓は跳ね上がる。
そこには、千早の名前が書かれていた。
なんだよあいつ。
メッセージにはこう書かれていた。
『ブルートゥースのイヤホンマイク、持ってるよな?』
持ってるけど、なんでそんなこと聞くんだあいつ。
俺はディルドを横に置き、震える手で返事を打ち込む。
『持ってるけどなんだよ?』
するとすぐに返事が来た。
『用意して待ってろ』
なんでそんな事……
何か用でもあるのか? メールで充分だろうに。
そう思いながら俺は、座卓で充電中の片耳用イヤホンマイクを取り、ベッドへと戻った。
右耳にそれをセットし、スマホと繋げて俺は、千早に準備ができたことを知らせる。
するとメッセージアプリを通じて電話がかかってくる。
その音にビビりながら、俺は震える手で通話ボタンを押した。
「なんだよ、千早」
『お疲れ様、琳太郎』
一日以上ぶりに聞く千早の声に、俺の心が揺れる。
『手伝ってやろうと思って』
「何を」
『オナニー』
恥ずかしいことをなんの躊躇もなく言われ、俺は顔が熱くなるのを感じた。
「な、な、な……」
『俺が聞いていれば、ヤるだろ?』
「う、あ、え……そ、そんなこと……」
ないとも、あるとも言えず、俺は押し黙る。
なにこの状況。
俺、千早に聞かれながらコレ、突っ込むの?
嘘だろ?
戸惑っていると、千早が言った。
『黙ってないで、早く服脱げよ』
「う……」
千早の声には、人を従わせる力がある。
「わ、わかったよ」
なんで俺、従ってるんだ? そう思いつつ俺は、スウェットパンツに手をかけた。
下着ごと脱ぎ、下半身が丸出しになる。
「ほら、脱いだぞ」
『ちゃんとタオル用意してあるだろうな? シーツ汚すと大変だぞ』
「んなことわかってるよ! でかいの敷いてある!」
思わず声を上げてしまい、俺は慌てて口を押さえる。
一階が両親の寝室なので、二階には俺しかいない。
姉たちはすでに家を出ている。
だから声を聞かれるおそれはないだろうが。
それでも恥ずかしすぎる。
イヤホンから千早の笑う様子が伝わってきて、更に恥ずかしさが増す。
『……そんなに気にするなら、うちに来たらいいのに』
「だ、だ、誰が行くかよ、今日は月曜日だろ」
声を潜めて答えると、千早は残念そうに答えた。
『あぁ、そうだな。まあ、そのうち自分から来るようになるだろう』
「ンなことになるわけねーだろ」
『そんなこと言ってられるの、今のうちだけだ。お前は俺の「番(つがい)」なんだから、そのうち自分から求めるようになるよ』
恋人でもセフレでもなく、番と呼ぶこいつの神経がしれない。
ていうかどんな自信だよそれ。
色々と言い返してやりたいが、下半身丸出しのままでいるほうが恥ずかしく、俺はことを進めることにした。
「もう時間ねぇから、さっさとやることやらせろよ」
『ああそうだな、じゃあ、琳太郎。まず、ローションを手につけろ』
声に含まれる威圧に、俺は逆らうことができなかった。
言われた通り、俺は震える手でローションの蓋を開けた。
それを指に絡めそして、うつ伏せになり尻を上げる。
「おい、手につけたぞ」
『よく中を慣らせよ。じゃないと、傷がつくからな』
ならこんな事やらせるんじゃねえよ。
心の中で悪態をつきつつ、俺はローションを絡めた指で後孔なぞった。
「あ……」
ぬるりとした自分の指の感触に、思わず声が漏れてしまう。
俺はゆっくりと穴に指を挿れ、そしてすぐに引き抜いた。
思ったよりもすんなり指が入り、その事に驚く。
それはそうか。
三日も千早に突っ込まれて泣かされたんだもんな……
指くらい、すんなり入るか……
俺はローションを追加し、指を中に挿れた。さっきよりも深く。
でも自分ではそんなに深く挿れられない。
「あ……はぁ……」
すぐに甘い声がでて、ペニスに熱が溜まっていくのがわかる。
昨日はいくら擦ってもイけなかった。
これならイけるかもしれない。
そんな考えがよぎり、吐息を漏らした。
イヤホンから、千早が笑うのが聞こえてくる。
『ははは……いい声だな、琳太郎。もう、指じゃあ足りないんじゃないのか?』
俺の気持ちなんて見透かしているような事を言われ、俺は顔が熱くなるのを感じた。
「ふ……あぁ……千早……」
『なんだ? 琳太郎』
「ん……指じゃあ、足りない」
素直に認め、鼻にかかる声で答える。その間も指の動きは止めない。
やばい、中、気持ちいい。
奥の方が疼くのに、指じゃあ全然届かない。
「千早……挿れたい……」
昨日の夜、イきたかったのにイけなかったが、中に挿れたらイけるかもしれない。
そう思うと早くあのディルドを突っ込みたくなる。
あぁ、挿れてぇ。
中、ぐちゃぐちゃにかき混ぜてぇ。
「千早、お願い……」
『そこに、俺はいないだろ? 自分で選べよ、琳太郎』
そう言われ、なんで俺は千早の許しを得ようとしていたのか困惑する。
そうだ、ここに千早はいない。
俺は指を引き抜き、用意しておいた除菌シートで指を拭いそして、ディルドを手にした。
『ちゃんと、ローションつけろよ』
んなことはわかってる。
俺ははやる気持ちを抑えながら、ローションをディルドに絡めた。
ペニスの形のディルドは、ローションをかけると余計に生々しくなる。
俺はドキドキしながら、そのディルドを尻へと持っていきそして、先端を後孔に宛てがった。
『自分で挿れてみろ』
千早の声に気持ちが昂ぶっていく。
俺は息を吐き、ゆっくりとディルドを中に挿れた。
「あぁぁぁ……」
俺の後孔はすんなりとディルドの亀頭を飲み込み、深く入り込んでいく。
あぁ、これだ。
俺が欲しかった刺激はこれなんだ。
『どうだ、琳太郎。ディルド、全部入った?』
「ん……あぁ……」
口を開けば出るのは喘ぎ声ばかりで答えられない。
やばい、これ。前さわるよりいい。
俺はディルドを掴み、懸命に抜き差しを繰り返した。
そのたびに、ローションがぐちゅぐちゅと、卑猥な音をたてる。
「あっ……千早……イイ……これ、気持ち、イイ」
『気に入ったならよかった。その様子だと、余裕で入ったみたいだな』
「ん……ン……」
答えたいのに、言葉に全くならなくなってしまう。
俺は夢中で、ディルドを動かし続けた。
時折先端が前立腺を刺激し、そのたびに先端から先走りが溢れていく。
昨日はどうやってもイけなかったのに、やばい、これ、もうイきそう。
『イくときは、ちゃんと名前呼べよ、琳太郎』
千早の声が甘い響きをもち、俺の耳に絡みついてくる。
俺はディルドをぐちゅぐちゅと動かしながら、言われた通り、千早の名前を口にした。
「ちは……や、イく……もう、イくからあ……」
『あぁ、イけよ。全部、聞いててやるから』
「あ、だめ、だめ、千早……イくイく……」
ここにはいないのに、千早に全部見られているような気がして、俺は呆気なく精を放った。
大きく息をつき射精感に浸りながら俺はそのままごろん、とベッドに転がる。
ヤバい、これ。
気持ち良すぎる。
俺、後ろじゃないとイけなくなったのか?
まじかよ……
その事に戸惑っていると、イヤホンから声が聞こえた。
『琳太郎』
名を呼ばれ、思わず甘い声が出る。
「あ……」
『明日が、楽しみだな』
明日……火曜日は、千早に会う日。
そう思い、俺は期待で胸を踊らせた。
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