16 / 66

第16話 住む場所

 一日の講義を終え、俺はマナーモードにしていたスマホを、ショルダーバッグの中から取り出した。  ロックを解除すると、千早からメッセージが来ていた。 『裏門前で待ってる』  その文面を見ただけで、身体の奥底が熱くなっていく。  時刻は十六時四十分。  空は曇り空のままで、晴れる気配は全くなかったが、気温はかなり高い。  俺はスマホを握りしめて、裏門へと足早に向かった。  おしゃべりしながら学生たちが、表門へと向かって歩いて行く。  駅へ向かう学生たちは皆、表門から出て行く。  裏門に向かうのは車通学の学生だけなので、かなり人の数が少ない。  駐車場を横切り裏門に行くと、門の外であいつが待っていた。  ジーパンに紺色のTシャツを着た千早は、門の柱に背を預け立っている。  彼の姿を見ただけで、俺の心が跳ね上がる。  って、なんでだよ俺。  千早の姿なんて、高校のときは毎日のように見ていたって言うのに。  まるで俺、あいつに会うの、楽しみにしていたみたいじゃねえか。  俺は頭に浮かんだ思いを打ち消すように首を振り、小走りに千早の方へと向かった。 「千早」  名を呼ぶと、彼はこちらを振り返り、にこっと笑った。 「琳太郎」  その笑顔にまた、心臓が跳ね上がり顔が熱くなるのを感じる。  いいや、何考えてるんだ俺。 「ごめん、待った?」  動揺を押し隠しながら言うと、千早は首を横に振った。 「いいや、俺もさっき来たところだし」 「で、この後どうするんだ?」  俺が言うと、千早は俺に手を差出してくる。   「夕飯、食べに行くぞ」  俺はその差し出された手と、千早の顔を交互に見つめ、ぶるぶると首を横に振った。 「誰が掴むかよ!」  そう声を上げると、千早は手をおろし、いたずらっ子のように笑う。 「残念」 「何が残念だよ! さすがに恥ずかしいわ」  辺りはまだ明るい。  さすがに男子大学生が手を繋いで歩いたら、目立って仕方ないだろう。  千早は俺に近づいたかと思うと、腕を掴み、耳元に唇を近づけて囁く。 「早く行くぞ、琳」  驚きで俺は、思わずその場で固まった。  早めの夕食をとったあと、千早の住むマンションに連れて行かれた。  リビングにつくなり俺は、ソファーに腰かけて朝、コンビニでもらった無料の住宅情報誌をショルダーバッグから出して開いた。  貰ったものの、全然見る時間がなかった。  ワンルームでいいんだもんな。  家賃の他に、敷金とか礼金とかかかるのか。  初期費用、けっこう掛かるんだな……  それを思うと来年までひとり暮らしは無理な気がする。  初期費用、貯めないとだよなあ。  うーん、どうしよう。 「琳太郎」  尖った声が降ってきて、俺はビビりながら顔を上げた。  ソファーの横に立つ千早が、マグカップを持って、冷たい顔をして立っている。 「何を、見てるんだ?」 「え? あぁ、アパートを探そうと思って。朝、コンビニでもらったんだ」 「へえ」  何だろう。千早の声が滅茶苦茶冷たい。  彼はマグカップをテーブルに置き、俺の隣に腰かけた。  そして、俺の肩に左手を回すとそっと、俺の手から住宅情報誌を奪い去る。 「え?」 「琳太郎」  耳元で名前を呼ばれ、俺は顔が赤くなるのを感じる。 「言っただろう、琳。お前は、俺のものだ」  千早の声が、低く耳の中で響く。 「ちょ……別に俺は、お前から逃げようとしてるわけじゃ……」  千早の舌が俺の耳を舐め、耳たぶを食む。  そこからゾクゾクとした感覚が拡がり、俺は思わず口を押えた。 「ん……」 「何、声を押さえようとしてるんだ、琳太郎。ここには、俺しかいないぞ?」 「だって……千早……あ……」  舌は耳から首へと下りていき、ちゅう、と音を立てて吸い上げられてしまう。  そんなところに痕つけられたら丸見えじゃねえか。 「やめ……そこ、だめだって……」 「なんで」 「み、見られたら、恥ずかしい、だろ……あ……」  右手がTシャツを捲り上げ、胸を撫でる。  乳輪を指でなぞり、指先が乳首をぎゅっ、と抓った。 「ひっ……」 「だから、ここに住めばいい、と言っているだろ」 「で、でも俺は……」 「お前は、俺の番だ。どこにも行かせない」 「あっ……」  くにくにと乳首を弄られ、俺の身体の中心に熱がたまっていく。 「ち、はや……」 「ここにいろ、琳」 「ン……で、も……」  千早は乳首をひたすら弄り、首を、頬を舐めてくる。  まるで猫が子供の身体を舐めるかのように。   「ちょ、っと、千早」  名を呼ぶと、唇が重なり口の中に舌が割り込んできた。  もしかして、俺にひとり暮らしをさせたくないのか、こいつ?  でもここに住むのは絶対に身がもたねえし、俺としては嫌なんだけど。  乳首と口の中を蹂躙され、俺の身体はさらなる刺激を求め始める。  やべえ。  早く欲しい。これだけじゃあ、物足りねえよ。 「ちは……ン……」  口が離れたとき名前を呼ぼうとするが、すぐに口を塞がれてしまう。  これじゃあ、酸欠になってしまう。  やばい、くらくらしてきた。 「琳太郎、イイ顔だな」  長いキスの後、千早は俺の顔を見つめ、にやり、と笑った。  俺は荒く息を吐きながら、千早にしがみ付く。   「お前が住む場所は、ここだ、琳」  低い声で囁き、千早は俺の身体を抱きしめた。  毎日、こんなことされたら身がもたねえよ。  だから、ここに住むのは全力でお断りしたい。 「千早……俺は……」  なんとか顔を上げて、すぐに実家を出るつもりはないと言おうとするが、また口を塞がれてしまう。  こいつ、俺の話、聞く気がない?  もやる気持ちはすぐに快楽の中に沈み込み、気が付くと俺は、もっと欲しい、と千早にねだっていた。

ともだちにシェアしよう!