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それは、あなたのことが好きだからです。 無意識に言いかけた言葉を何とか呑み込み、「どうしたの」と首を傾げる伊織に、「なんでもないです!」と顔の前で両手を振った。 「それよりも! どこかに休憩しませんか!」 「休憩か……あ、いいところがあるよ」 ついてきてと言う伊織に、一色はその隣に並んで歩く。 腕の中のお祝いの物を抱きしめて、嬉しい気持ちで頬を緩めながら。 「ここだよ。ここで休憩しようか」 本屋から歩いて少しした後、大きな池を横目に、その前の木々の下に設置されたベンチを並んで座った。 眼前に広がる池を見、心地よい風と葉の擦れ合う音を聞いていた時、「僕が本を好きになったきっかけの話を、聞いてくれるかい?」と言ってきた。 それに対してコクコクと頷くと、ふんわりと笑って、口を開いた。 伊織智樹。高校生の頃。 当時の自分ははっきりと言うと、本そのものを見るのが嫌なぐらい、嫌いであった。文字を追うことさえ億劫なぐらい。 想像力が欠けていたのだろう、文字を追いながら、自身の頭の中で作り上げた世界で物語を進めることが出来なかった。 そんな自分とは真反対の人物がいた。 「"あの人"は、教室の端の席で一人、黙々と読書をしていて、声を発しているのを見たことがないぐらい、物静かな人だったんだ」 陽の光を浴びたことがないのかと思うぐらい肌が白く、年頃の男子にしては本を持つ手が細く、小柄な印象を受けた。 「クラスに必ず一人いる、根暗なやつだと思うだけで留まればいいのに、どうしてそうしようと思ったのか、ちょっとちょっかいを出してみようと思ったんだ」 「えっ、伊織さんが……?」 「やると思わなかったって?」 「……あ、はい……。伊織さん、大人しそうだから」 「そうか。そう見えるんだね。でも、その時はきっと、若気の至りだったんだろうね」 後先を考えず、真っ先に"あの人"に近づいた伊織は、夢中になって読んでいるその本を取り上げた。 そうなると、"あの人"は突然何が起きたのかと一瞬固まる。その反応でまず笑ってしまいそうになりながら、次に自身のそばで本を取り上げた者を見、本を取り戻そうと手を伸ばそうとする。 が、伊織はその人より背が高く、手に持っている本を高く上げてしまえば、"あの人"がどんなに背を伸ばしても、全く届かない。 あまりにも必死になって取ろうとするさまが面白おかしくて、肩が震えるほどだった。

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