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そうして、周りで見ていた人達の制止を聞かず、余裕ぶっこいていた時。 乾いた音が響いた。 その次に頬が熱くなるのを感じ、それがはたかれたのだと理解した時、その叩いた人は、目を吊り上げてこう言った。 『人がただ読んでいただけなのに、急に何をするんだ! この卑怯者ッ!!』 初めて聞いた声に驚くが前に、言われたことに腹を立て、だが、"あの人"の全くもっての言う通りだと、言われて当然だというのに、当時の愚かな自分は、言い返そうとした。 ところが、"あの人"の鼻から血が垂れてきたことにより、口が噤んでしまった。 "あの人"は咄嗟に鼻辺りを手で覆っていたが、おっかなびっくりした伊織は、何を思ったのか、横抱きして、保健室へと駆け出したのだ。 「伊織さん、昔から力持ちだったんですね……」 「まさか、あそこまで自分が力があるとは思わなかったよ。というよりも、"あの人"が見た目以上に軽かったからだけどね」 苦笑気味に笑う。 その表情が一色から見ると、どこか寂しげに見えた。 慌てふためく伊織に、"あの人"に逆に窘められている最中、保健の先生に、『落ち着きなさい』とぴしゃりと言われたことで、一瞬黙った隙に、"あの人"のことを見た途端、『救急車を呼ぶわね』と告げられた。 伊織がきょとんとしている間に、"あの人"は後にやってきた救急隊員に連れられていく。 "あの人"はそのまま入院することになると、保健の先生に言われる。 残されたのは、手に持ったままの本。 呆然としつつも、何となしに開いたその本を少しずつ読み始めた。 読み慣れない活字に、何度も挫折しかけていたが、どうしてか諦めることはせず、悪戦苦闘しながら読み進めていった。 そんな日々を送り、ようやく読み終わるほぼ同時に、"あの人"が退院してきた。 伊織は、"あの人"が教室に訪れた時、真っ先に取り上げた本を渡しつつ、謝罪しながらも、その本の感想を言った。 すると、口をあんぐりと開けていた"あの人"が、ふっと悪戯げな笑みを浮かべたかと思うと、額にぴんと、デコピンしてきたのだ。 突然の出来事に伊織がぽかんとしていると、"あの人"はニカッと笑った。 『嫌ないいやつ』

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