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『·····?』 『君の、髪を染めていることが』 「伊織さん、髪染めていたんですか?!」 「あ……」 つい、口が滑ったと口を塞いでいたが、「……昔はカッコイイと思って、染めてみたりしてたんだよ」と気まずそうに目を逸らしながら、ぼそぼそと言った。 だから、普段は黒髪に見えるけれども、光に当たるとそんな風に見えるのか。 不思議で、どこか素敵だと思っていたのだが。 と、一色はあることを思い出す。 それは、授業で図書室に行くことになり、その同じクラスの男子生徒らが調べることに飽きたらしい、自身のノートを丸め、それを刀に見立て、もう一人は図書室の本を盾にして遊び始めてしまったことがあった。 担任の先生の制止も全く耳を貸さず、そのままし続け、周りの人達が迷惑そうな目を向けていた時だった。 「君たち、ちょっといいかな」 二人の背後に立った伊織が、にっこりと、これ以上にないぐらい笑みを浮かべて、静かに言った。 一色もそうだったが、突然後ろにいたものだから、二人は振り返った時には、見るからに驚いていた。 その時、人差し指を唇に当て、「君たちにいいものを見せてあげようか」と言ってきたのだ。 二人は一瞬、互いの顔を見合わせていたが、すぐに嬉しそうな声を上げた。 それを見た伊織は、「じゃあ、行こうか」とカウンター奥にある、準備室らしい、一色ですら言ったことのない部屋へと案内されていた。 どのぐらい経っただろうか、担任諸共その閉じられた扉を静かに見つめていると、大きな音を立て、我が先にと出ていく二人が走ってきたのだ。 その顔は、この世の恐ろしいものを見たと言うような青ざめた表情。 何が起きたんだと、身体中を震わせている二人と、さっきと変わらない笑顔のままの伊織がそこに立っていた。 その後、次の授業には参加せず、図書室に二人きりになった時に訊いてみたが、「きっと、綴君はそういうことをしない子だから、必要のないことだよ」と言って、この話は終わりだと言わんばかりに、さらりと次の話をし出した。 あの時は、自分の知らない部屋に行ってずるい、と不貞腐れ気味に思ったが、今、伊織の過去の話を聞いていると、何かの方法で黙らせたのでは思った。 そう、今思えば、普段の他愛のない話をしている時でも、突然として口調が荒っぽくなる時があったから、きっとそういうことなのだろう。 好きな人の自分にしか知らないだろう一つを知れて良かったと、一般の人は思うだろうが、一色は怖気付いてしまっていた。

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