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それからは、もやもやした気持ちを抱えながらも、"あの人"と接していたが、日が経つにつれて、入退院を繰り返すようになった。
しかも、入院する期間が長いからか、日に日に見るからに痩せていってしまっていた。
その姿に正直、眉が下がってしまうぐらいに可哀想だと思ってしまっていた。
それにもう、もしかしたら、彼は──。
伊織は、首を振った。
何を、何を良からぬことを考えているんだ。そんなこと、ありえるわけがないだろう。
そんな、こと……。
ようやく退院したある日のお昼休み。
いつも教室で食べるのは飽きたから、外に行きたいと駄々をこねるような言い方に、渋々ながら承諾し、中庭の芝生のところで座って、食べることとなった。
『僕、死ぬのかもなぁ』
食べ終わり、くつろいでいた時、隣からのんびりとした口調で言ってきた。
心を見透かされたのではないかと思い、そちらを見やった。
彼は伸びをしていたらしい、その姿勢のまま、後ろへと倒れ込む。
ばさっという音を立て、彼は両手を、へそ辺りの上に手を組んで置いた。
そんなことないだろ、と否定したかったが、噤んでしまった。
彼は、晴れ渡った空を眩しそうに目を細めた。
『なんだかこういう時って、察せるみたいなんだわ。というか、こんなにも入退院繰り返していて、しかも、入院する期間が長いのだから、察せざるを得ないよな』
小さく笑って、目をゆっくりと閉じた。
その表情はどこか吹っ切れたかのような、穏やかな顔に見えた。
この一瞬でまさかと思い、声を掛けようとした時、口を開いた。
『髪を染めてくれたあの日のこと、僕が何を言ったか、分かってくれた?』
『………………まだ』
『そう。…………でも、僕が生きているうちに、伊織から答えが聞きたいけどな』
『…………生きているうちだなんて、縁起でもねぇ』
『ふはっ、たしかに縁起が悪いかも』
いつもと同じように、声を抑えて笑っていた。
その姿を見て、いつもであれば、つられ笑いをしていたはずなのだが、やはり、笑う気が失せており、かえって心を痛ませることになった。
笑うどころじゃないのに、彼はどうして、こんなにも清々しい表情をしているんだ。
そして、この瞬間が一番に生き生きしているように見える。
なんでなんだよ。なんで今そういう顔をするんだよ。
前みたいに、羨望と諦めと悲しみのある目をしてくれよ。
そうしたら、出来る限りのことをしてやるのに。
これじゃあ、何もしてやれない。
『……伊織。泣いてる──』
『──んなわけねぇ。太陽が眩しすぎるだけだ』
芝生に寝転がった伊織は目元を腕で覆った時、『……それこそねーよ』という声が隣から聞こえた。
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