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2.僕だけが気づいた変調

翌日―― 今日も引き続き射撃訓練があった ディケンズは僕が起きた時点ではもう姿が見えなかったので、もしかしたら自主練でもしていたのかもしれない。試験の本番では見事に1位の記録を取っていた。 その割には、どうも様子がおかしい。 周りには気付かせないようにしているし、周りもディケンズは不愛想で話しかけても大した返事もしないので関わらないように遠巻きにしているから気付かないのだが。 時々反応が遅れている。つまり、ぼんやりとしていると言うのが正しいのだろう。 今日は試験のみで解放された為、珍しく早い自由時間を得る事になり皆、日頃の鬱憤を晴らすべく外へ繰り出すなりなんなりを話しながら解散していったのだが。 ディケンズはそのまま部屋へと戻ってしまった。 自分も何処かへ行っても良かったのだが、ディケンズのことが少し気になったので様子だけでも見に行ってみようかと、足早に戻るとディケンズは部屋の隅でしゃがみ込んでいた。立ち眩みでもしたのだろうか? 「ディケンズ……?」 一声かけて近づくと、僅かに反応を示した。返事はしなかったが僕の存在に気付き、そのまま立ち上がろうとするが。立ち上がろうとして、そのまま身体がぐらりとふらついた。慌てて支えてやると、随分と体温が高いことに気付く。 「お前……」 「……薬が切れただけだ」 「この状態でテストを?」 「朝、飲んでいる。だが、効果が切れた」 「それは見ればわかる。いいから休め」 「……あぁ」 珍しく素直に従うので、本当にあまり余裕がないのかもしれない。この感じだとかなりの高熱なのだろう。 「寝る前に薬を……」 「分かった。じゃあ、まずここに座れ」 ディケンズを支えながら座らせて壁にもたれかかるようにしてやるが、やはりぐったりとしていた。荒く呼吸を続けるばかりでいつも以上に反応がなく動かない。 「まさか、これの原因も……」 「昨日のこともあるかもしれない。しかし、自己管理ができなかったのは自分の責任だ。きっかけはお前かもしれないが自業自得だ」 辛そうに息を逃しているのにいう事は全く可愛げがなかった。 水の入ったグラスを差し出してやると、昨日と比べ焦点が定まらない視線を向けてくる。受け取ろうと手を伸ばすが、大分我慢をしていたせいかそれすらも受け取れない。 手を握って補助してやると漸く自分の方へと引き寄せる。だが、口元へと運ぶ気力もないのか握りこんだまま動かない。 彼には申し訳ないとは思うが。心配する気持ちと、普段弱みも見せない人間が弱っている姿を見せられて。どうも妙な気持ちになる。 昨日も思ったがディケンズは顔も不愛想ではあるが整っているし、身体はまさに自分の好みだ。 言ってしまえばアリなのでこのような据え膳は頂いてこそ、とも思ってしまう。 ディケンズに性行為の経験があるのかどうかは知らないが、全く興味を示さない。たまたま同室になったものの、口数も少ないし口を開けばお堅くてつまらないしとなんとも面白くないと思っていた。 だが、今のディケンズならば判断能力も落ちている。ちょっと押したらモノにできそうな気がして。心の奥底の暗く浅ましい醜い部分が、このまま頂いてしまえと囁き続ける。 「水も口に運べない程か……確かに自己管理出来ていないと言われてしまうかもしれないな。それに明日はギルド長が様子を見に来る日だ。そんな調子で大丈夫なのか?」 「……だから、薬を――」 「それだけが原因じゃない。溜め込むのは身体に悪いって習っただろう?お前は我慢しすぎだ。それも自己管理の一種だろう。だから、手伝ってやると言っている」 ディケンズはジッと此方を睨んでいる。が、ほんのりと赤く色づく頬と赤らんだ目で睨まれてもむしろ誘われているようにしか見えない。 愉しくなって口元が緩む。なかなか揶揄いがいがありそうだった。 「スッキリすれば熱も下がると思う。これは持論だが、前に医学書を読んだ時にそのような記述があった。自慰も自己管理だろう?それに自分でやって時間がかかるなら、他人がやってすぐ終わってしまうほうが楽だ。別に僕も弱みを握ろうとかそんなことは思っていない」 「……」 睨んでいるのも辛そうだった。何も答えずに壁に背を預けるとそのまま俯いてしまった。 熱も高いのだろうが、色々と本当に辛いのだろう。ずっと熱い息を逃す事で精一杯といった様子だ。このまま意識を失われても困るし、答えを聞かずに手を伸ばした。

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