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9.討伐依頼
リューと僕はギルド長に呼び出された。何でも魔物が好き放題して困っているということらしいのだが、その魔物というのが厄介らしい。
「魔物って……植物系なんですか?燃やすわけにはいかないんです?」
「お前たちならば燃やさずとも処理できるだろうが。遠距離でも近距離でも得意なのはお前らくらいだ」
「では、場所を」
僕がいいとも悪いとも言わないうちにリューが勝手に話を進めていく。ギルド長はこれも承知の上で依頼を振ってきているのだから困る。依頼主と魔物の出没場所を教えてもらい、リューはさっさと踵を返して退出してしまう。
「相変わらず相談なしか。全く……」
「――アルヴァーノ」
追いかけようとした僕をギルド長が引き止める。首を傾げて話の続きを聞こうとすると、ギルド長が意味深な表情を向けてきた。
「お前なら大丈夫だろうが……リューライトが困ったら、お前が助けてやれよ。まぁ……上手くやれると信じているが」
「何ですか、それ。僕の方がリューよりか弱いと思いますけど。まぁ、いいです。ココにいる以上はやらせてもらうってことで」
「ホント、お前も何考えてんだか良くわかんないヤツだな。ギルドにいて何が楽しいんだか。ま、頼んだぞ」
(ギルド長のあの感じ。この依頼、怪しくないか?)
ここで突いてもこれ以上何も教えてもらえそうにもないので、僕も退出してリューを追いかけようとしたのだが、意外にも部屋の外で待ち構えていて驚いてその場で跳ねてしまった。
「お、驚いた。リュー、行ったんじゃなかったの?」
「――ギルド長に何か言われたのか?」
「別に、気をつけろって話だけだったけど、念押しされたのが怪しいっちゃ怪しいかなってくらい?」
「そうか」
相変わらず表情を変えないリューを見て苦笑しながら、早速依頼主の元へと向かうことにした。
+++
着いた村はあまり裕福そうではなく、自分たちで自給自足しながら細々と生計を立てているようだった。依頼は周辺の村々で少しずつ貯めたお金で依頼した、とのことだった。
「急に見知らぬ植物が生えてきて、家畜や畑を食い荒らしたのです」
「我々も火を放ったりしてみたのですが、一旦は燃えるものの、また一回り大きくなって周辺を枯らしてしまうんです。その魔物のせいで畑も木々も家畜も。命あるものが皆吸い取られていくようで……いつ、それが人間に向けられるのかと恐ろしいのです」
村長たちは震えながら切に訴えかけてくる。さすがの僕でも放っておくのはかわいそうだなと思っていると、リューが感情のこもらない瞳で、分かりました、と一言告げる。説明下手なリューに変わって、僕が後を引き継ぐ。
「私たちにお任せください。魔物がいる付近に住居がある皆さんは、念のために避難をお願いします。迅速に処理しますのでご安心を。討伐を終えましたら追って連絡がいくと思うので、2、3日は周辺には近づかず、後処理が終わるまで側に寄らないでください」
「分かりました。皆に伝えます。どうか、宜しくお願いします」
村長たちは深々と頭を下げて、僕たちを小さな宿屋へと案内してくれた。一旦荷を下ろしてリューと討伐内容を確認する。
「村長の話によると、何か畑の側に急に生えてきて巨大化したってことだけど。何、突然変異かなんか?」
「さぁな。俺たちは依頼をこなすのが仕事だ。調査するのは別のチームの仕事だろう」
「それはまぁ、そうなんだけどね。で、どうしようか。僕は後方援護でいいの?」
「状況によるが、俺が前に出て牽制する。お前は後方で、逐一敵の動きを伝えてくれればいい」
何かと戦う場合は大抵リューが前方で敵を引き付けて攻めていく。僕は持っている獲物が鞭なのもあって、得意な間合いは中から遠距離といったところだ。リューは体術も武器の扱いも慣れているのでどこの間合いでも得意らしい。なんていうか、戦うために生きているんじゃないかと思うくらいだ。
「了解。で、もう行くの?」
「準備をしたら出る」
「少しくらい休んでも……」
「討伐依頼は迅速にこなせばこなすほど、ギルドの評判が上がる。ひいては自分への評価へと繋がるのだから、早く済ますことに越したことはない」
正論を淡々と述べられてしまうと、こちらも返す言葉もない。苦笑して、分かった。というくらいだ。リューは銃とナイフをホルダーに差し、手にはナックル、靴は仕込み靴である黒のブーツの具合を確認し、黒いコートを羽織るとこちらの準備が整ったと見越して、行くぞ、と声を掛けてきた。これだけ装備しておいて、動きが俊敏なのだから謎だ。見た目の色合いが黒ばかりで、暗殺者と言われても過言ではないので余計に誰も近寄らないだろう。
「はいはい……じゃあさっさと終わらせて、ギルド長に褒められるとしましょうかね」
僕もお気に入りの黒のロングコートを羽織って後を追う。僕の服装は見た目重視なので、軽装で防御力に優れているものだ。最新式の装備が実家から流れてくるので、良かったらギルドにも紹介したりするが如何にもという装備ではなく、シャツとタイ、そしてパンツという簡単なセットで十分だ。着こなせて尚且つ、いざという時に脱ぎやすいのも良い。
(さて……何事もなければいいんだけど、やっぱり嫌な予感がする)
予感が当たらないことを祈りながら、リューに置いていかれないように早足で宿を後にした。
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