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10.戦闘開始

討伐ポイントまで会話が盛り上がることもなく到着すると、言われた通りの場所に奇怪な巨大な植物がそびえ立っていた。色も綺麗とは言えず、赤紫と黒が混じったような大きな花が天辺に咲いており、ダラダラと液体を垂れ流している。茎は太く、全体的に鋭い棘が付いており、獲物を探すように時折脈動していた。 「普通じゃないとは思ってたけど、ここまで来るとやっぱり魔物だね。アイツに抱かれるのは僕でも勘弁だな」 「くだらないことを言ってないで、下がってろ。後、数歩近づくと奴の間合いに入る」 しっかりと大地に根を張っている割には、動きが早いのかもしれない。枝分かれしている何本もの茎が、素人目にも厄介だということが分かる。僕は全く気乗りしないが、リューはもう臨戦態勢に入った。素早くホルダーから愛用のマグナムを取り出すと、いきなり花弁と思われる部位に向けて弾丸を打ち出した。 「だから、片手でマグナムを撃つのは反則だって!先制攻撃が早い!」 僕の抗議も気にせず、追撃をかけていく。 自身に向かってくる茎を交わし、回り込みながら、1発、2発―― ダァン、ダァン、という音が鼓膜に突き刺さる。 僕は何となく耳を塞ぎながら、こちらにもやってくる茎を鞭で撃ち落とす。 「キィィィィヤァァァァァァッッッ!!!!」 弾丸が命中しているのか、叫び声のような音を発して茎がそこら中をのたうち回る。 「おい、リュー!コッチにも茎が来てる……っ!チィ、面倒だっての!」 「煩い。それくらいは自分で何とかしろ。やはり、天辺の花の中心に攻撃を与えないと致命傷にならないか」 弾を撃ちきると、一旦ホルダーへと仕舞いこんで、今度は体術に切り替えていく。リューは軽やかに右へ、左へと、植物の攻撃を躱しながら、手に持ったナイフで細い茎は全て切り落としていく。 「リューの動きは早くて目で追えないんだよ……これ、絶対燃やした方が早いって!」 僕も何度も鞭をしならせて撃ち落としてはいるものの、切っても切っても、キリがない。新たに生えてきては、こちらを捉えようと茎を伸ばしてくる。 「口を動かす暇があったら、手を動かせ」 一旦距離を取ったリューが僕にそれだけ声をかけると、マグナムに弾を込め直し、勢い良く走り出す。 正面に向かってくる茎を切り払い、脇から押し寄せてくると、思い切り蹴り飛ばす。めちゃくちゃなようだが流れるように再度距離を詰めて、今度は地面を蹴って、跳躍する。 「と、飛んだ!?」 呆気にとられていると、リューは茎に飛び移りながら、天辺を目指して登っていく。暴れる茎の上でバランスをとりながら、天辺に近づくとさらに天に向って跳躍する。ふわ、と身体が空で翻り、一瞬、時が止まったような錯覚に陥る。 戦いの最中だと言うのに、僕は何だか見惚れてしまった―― 「何、アレ……」 リューは同じ人間とは思えない動きで空中で銃を抜き、狙いを定める。 魔物からすれば喰われにきたのかとでも思ったのか、花びらを広げてリューという獲物を迎え入れようとする。しかし、落下しながら身体を捻り、牽制のように花弁に何発も銃弾の雨を降らせていく。 「ギィィィィギャァァァァァーーーーーアァァァァアーーーーッッッ!!!!」 何とも言えない声に頭痛がするが、顔色1つ変えないリューはそのまま身体ごと突っ込んで、勢いよく持っていたナイフを中心部に突き立てる。 「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーー――――」 断末魔なのか、最後まで耳障りな声を残し、魔物は動かなくなった。 花びらに着地していたリューも、ナイフを引き抜くと、崩れ落ちる花と共に地面へと降り立つ。 「おかえり」 「あぁ」 何事もなかったようにこちらへと帰ってくるリューを、片手を上げて待ってみる。チラとこちらを見てから溜め息をつき、僕の片手を軽く叩く。 「僕は何もしてないけど、討伐完了ってところかな」 「寄生型だから、後始末はしないといけないが。俺たちの仕事はここまでだ」 「そうだね。近くで見れば見るほど、悪趣味な花だ。気持ち悪い」 僕は地面へと落ちた花へと近づいてヒョイと覗き込む。花弁はリューによって引き裂かれてはいるが、流れ落ちている液体が何だか妙な香りがして…… 「……っ、アルヴァーノ!」 リューの焦ったような声が聞こえたかと思うと、グイっと思い切り腕を引っ張られた。勢いで尻餅をついてしまうが、気が付いた時にはリューが僕の目の前に立っていた。 ゴバァッ!という音と共に花弁から液体が吹き出して、僕を庇ったリューに液体が吹きかけられてしまう。ビクンと動いた花弁はそれきりで。今度こそ動かなくなった。 「え……え?リュー?ちょっと、リュー!!」 頭からベタベタになっているリューに不安になり、慌てて駆け寄ろうとする。 「来るな!!」 鋭い声に制されて、踏み出した足で数歩たたらを踏む。 「大丈夫、だ……洗い流してくるから、お前は先にもどれ」 「大丈夫って、ねぇ、溶けたりして、ないよね……?」 「……溶けてない」 確か、この近くに川があったはずだ。リューもそれを覚えていたのか、フラ、と身体を揺らしながらゆっくりと川の方へと歩いていく。僕は差し出した手を握り込み、その背を見送ることしかできなかった。

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