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14.不意打ち

外の日も落ちてきた頃―― 結局リューが収まるまでには数回かかり、僕も全身全霊でお相手させてもらった。 何度目かの絶頂でリューの意識が完全になくなってしまったが、呼吸が落ち着いてきたのでどうやら媚薬の効果も同時に治まったようだ。 普段と違うリューは新鮮で欲求は満たされたけれど、個人的にはやっぱり無反応なのは残念で、今回のことはあくまで治療の一環にすぎないと思う。普段は仏頂面の中にも言いたいことが書いてある時もあるし、何よりリューのことをもっともっと知りたいと思う自分がいた。 (気絶するまでシたから、いくらリューでもすぐには動けないだろう。今夜は野宿だろうな……) リューの身体を拭いて身綺麗にし、シャツだけは着せて横たえてみたが、なかなか意識が戻らない。さすがに不安になってきて顔を覗き込もうとすると、額に触れた手に気づいたのか、薄っすらと瞳が開く。 「リュー、気が付いたか?」 「……う……」 「なんていうか、動けないと思うから安静にしていた方がいいと思う。どう?熱は引いた?」 「……あぁ」 どうやら意識は戻ってきたらしい。まだ瞳に普段のような鋭さはないが、しっかりと僕を捉えていることが分かる。 「今日はここで休んでいった方が良さそうだ。僕も一緒にいるから安心して眠って大丈夫だ」 「……」 僕の言葉は聞こえているのかいないのか、相変わらず反応が薄い。だが、これは理解した顔だと思う。パチパチと弾ける焚き火の側で、先程とは打って変わって静かな時が流れる。普段はお喋りであろう僕も、今だけは静かに焚き火の番をしているだけだ。 「……アルヴァーノ」 「……ん?何?」 「迷惑を、かけた。――すまなかった」 「別に。元々僕を助けたせいでリューが全身に浴びちゃった訳だし。言っただろう?僕の得意分野だと」 僕が鼻高々に言い切ると、リューは口元だけで微笑したように見えた。ほんの一瞬だったし見逃してしまいそうだったけれど。時折見せる表情が僕にだけ向けるモノだったらいいのにと思ってしまう。何か言おうとしたリューが軽く咳込んだので、背中を擦ってやる。あれだけ普段使わない声帯を使えば喉も痛むのだろう。 「水、汲んでくる」 リューは僅かに頷いたので、僕は一旦リューの側から離れて川へと向かう。持っていた水筒に水を汲んで戻ってきても、リューは身体を横たえたままだった。 「ただいま。リュー、起きられるか?水飲むだろう?」 リューは身体を起こそうとするが、身体全体が疲労しているせいかうまく力が入らないようだ。僕が補助すると漸くゆっくりと身体を起こす。 「前にリューが熱を出していた時を思いだすよ。はい、水」 「お前は飲まないのか?」 「飲ませてくれるなら、飲むけど」 冗談だ、と言って笑うと、リューは水筒を受け取って水を口に含む。 飲む仕草をしたはずなのに、それだけではなくて。何故かそのまま僕の頭を引き寄せて、強引に口付けてくる。 「んんっ!?」 唇の隙間から水が流し込まれる。やることだけやると、リューはまた少し身体を離してしまう。コッチは冷たい水がいきなり入ってきたので驚いたが、軽く咽ながらなんとか嚥下することができた。 「お、驚いた……何、いきなり」 「飲ませるのなら、飲むのだろう?」 「いや、確かに言ったけど……もしかしてリュー、まだぼんやりしているのか?」 「さぁな」 しれっと言い放って素知らぬ顔で水を飲んでいるリューをジィと見遣る。僕の視線はどこ吹く風と無視を決め込むが、水筒を空にしてしまうと改めて僕と視線を合わせてくる。 「ほぼ一気飲みしてるし。喉渇いてたんだ?」 「あぁ。そうだな……」 話している間にリューが堪えきれなかった欠伸を漏らした。眠そうなリューの身体をまた支えてやると、僕の膝の上に頭を乗せる。抵抗するかと思ったが本当に眠気が襲ってきているようで、瞼が下りて来ているのが分かる。 「疲れただろう?とりあえず眠って回復したら戻ればいい」 「お前は?」 「僕は後で寝る。リューが回復したらおぶってもらえばいいし」 「……そうか」 ウトウトと微睡みながら、リューがふと、僕を見上げる。何?と首を傾げると、唇が僅かに動いたので、慌てて耳を近づけて音を拾おうとする。 「――ありがとう」 リューは一言だけ呟いて、今度こそ本当に眠ってしまった。 1人残された僕は、逆に妙に気恥ずかしくなる。何となく顔に血が上っている気がして、片手で顔を仰いで熱を逃す。 (いつも大して喋りもしない癖に……こういうの、急に聞かされる方が何だか妙な気分だ) 自分は思ったよりリューのことが気に入っているらしい。無防備に眠っている顔を覗き込むと、普段より穏やかでどこか幼い感じもするから不思議だ。 「おやすみ、リュー。僕はリューの寝顔を近くでたっぷりと堪能させてもらうことにするから、覚悟しろよ?」 起こさぬように額に触れるだけのキスを落とし、また静寂の訪れた空間で一夜を明かすことにした。

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