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15.帰還

翌朝―― 座ったまま途中で眠ってしまったらしい。朝の日がうっすらと差し込んできた洞窟内は、相変わらず静寂に包まれていた。 僕がゆっくりと目を開けると、目の前には装備を整えたリューが立っていた。 「おはよう、リュー。身体の具合はどう?」 「お前のおかげで大分楽になった。ギルドへの報告は?」 「あー……忘れてた。でも、誰も近づけるなって言っておいたし、村長さんたちに完了報告だけして、後は帰還でいいんだろう?」 「そうだな。しかし、死骸を放置してしまったから後で処理班に文句は言われそうだが」 話しながら欠伸をしていると、リューが近づいてきて背を見せた。無言で僕の前で屈み出したので寝不足の頭ではイマイチ何がしたいのか分からない。 「え、何?」 「いや、昨日背負っていけと言っていただろう」 「あぁ、そんなこと言ったか。冗談のつもりだったが本気にしてくれるとは。時々お前の妙に一途なところが羨ましいよ。そうだな……じゃあ」 俺は背筋を正したリューに絡みつき、背伸びして触れるだけのキスをする。 リューは視線だけ俺に寄越したが、別段表情を変えるでもなく、突き放すでもなく。ただ、受け入れた。 「相変わらず意味が分からないのだが」 「ここでもっと激しいことはしたけど、やっぱりリューの意識がある時にしないとね。まぁ、俺としては得しかしてないし。良い体験だった」 「そうか」 言い方はそっけないが、どう言おうか困ったのかもしれない。行くぞ、とだけ言うと、リューは何事もなかったように歩き出す。僕もいつもの通り、その後を追った。 +++ 依頼主の元へ戻ると自分たちが討伐に赴いてから1日過ぎたことを気にしていたようだったので、少し厄介事が起きたとだけ伝えて、後は処理班が後片付けをするまで近づかないようにと言伝だけ残す。村長たちに丁重な礼を言われながら、村を後にする。 その後、寄り道もせずにギルドに報告のために戻ったが、たまたまいたギルド長がニヤニヤしながら僕たちを出迎えた。 「なんとか無事に帰ってきたようだな」 「討伐自体は問題はありませんでした」 僕が先に端的に伝えるが、リューとの付き合いが長いギルド長が何かを察してリューの顔を意味深に覗き込む。 「……何か言いたそうだな、リューライト」 「俺が不覚を取ったので1日帰還が遅れました。申し訳ありません」 リューの言葉に予想通りだと思ったのかギルド長が、ハハハ!と愉しそうに笑う。こういうところが食えない人物なので、僕でも警戒するところだ。 ギルド長はメルセネールを立ち上げた人物であり、各方面から目をかけた人材を拾ってきては育てている一風変わった人物だ。話によると、拾ってくる人材は子ども、大人、身分など関係なく、後はギルドの方針に従えばいいという主義だ。そしてギルド長本人も、その強さは各方面に知られており、剣は両手剣、銃も両手に持つという、そこそこ年齢はいっているはずなのに、筋肉で全身がガッシリとした威圧感のある人物であり、正直近づきたくない部類の人間だ。率直に言えば、怖い。 燃えるような赤髪をしていることから、ギルド界隈では「炎狼」と呼ばれている。 「ギルド長、あの魔物がアフロディジアだって知っていて僕たちを行かせたでしょう?」 「まぁな。何かあるとすればリューライトだろうなと思っていた。どうせ、アルヴァーノは後方支援だろうし。突っ込んで攻撃する方がヤツの体液を浴びやすい」 「体液に催淫効果があるって、先に言っておいてくださいよ。あの感じ、リューじゃなかったらもっと大変なことになってましたよ」 僕とギルド長が言い合っている中、リューは1人素知らぬ顔をしていたが、ギルド長に無理やり顎を掴まれる。不服そうに視線を鋭くするリューにギルド長が耳元で何かを吹き込んだ。リューの肩がピクっと跳ねて、まるで耳に息を吹き込まれて感じたような雰囲気すらあるが、気のせいだろうか? 「ギルド長?リューで遊ばないでください。それ、俺も我慢してるのに」 「お前も悪いヤツだな。いや、まれに後遺症が出るヤツもいるから気をつけろと言っただけだ。なぁ?リューライト」 「……」 リューは短く息だけ吐き出し何も答えないが、後で念のための薬が渡されることになった。 「変人同士なバディだが上手くやってるみたいじゃないか。これからも頼んだぞ」 「一言余計ですが、僕は楽しませてもらっているので問題ないです」 「はい。失礼します」 リューはギルド長に肩を叩かれると、もう一度失礼に溜め息を吐いて何も言わずにさっさと部屋を出ていってしまった。 「ギルド長……さっきリューに何を言ったんですか。もしかして耳にフーしたとか?」 「それもしたが、お前には内緒だ」 ニヤニヤと意味深に笑われると余計に気になったが、深入りするとこの人は怖いので僕も早々に退散することにした。

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