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16.疲労と眠気
リューがギルド長に何を言われたのか気になって仕方ないので、こうなれば本人に聞こうと肩に手をかけて引き止める。
「なぁ、リュー。ギルド長に何を言われたんだ?気になる」
「前に似たようなことを言ったはずだが、そんなことを聞いてどうする?」
「まぁ、ここまで関わったらもっと深く関わりたくなるのが人間だろう?待つとは言ったが、待っている間にしわしわのおじいさんになりそうだ」
理解できないと言わんばかりに、リューは呆れた顔をしている。それでも手を振り払おうとしないのは、やっぱり優しさなのだろうか?
「それで。お前はいつまでここにいるつもりだ」
「話してくれる気になった?」
「……」
またいつものだんまりだが気にせずリューに纏わりつく。腕を組んでみたけれど、それでも振り払おうとしない。
(もしかして、本当に距離感が縮まったのか……?)
「僕も疲れたし、僕たちの家に帰りますか。報酬ってもう貰えるかな。薬も一緒に支給されるんだよな」
「そのはずだ。俺も……いや、何でもない」
「またそういうことを……まぁ、ここで言ってても仕方ないし。僕もさすがにベッドで眠りたい」
何度目かの欠伸を噛み殺し、リューに引きずられるようにだらだら歩き出す。
今回の働き分の報酬を貰いに行ってから、そのまま隠れ家へと真っ直ぐ帰宅した。
「ただいま、と。まずはシャワーを浴びたい。そうしたら1杯やろうか」
「寝るとか言ってなかったか?」
「飲んだらいい気分で眠くなるだろう?」
遠征用の荷を下ろし、身軽になると僕は一直線にシャワールームへと向かう。
リューも入ってくるかと思ったが、さすがに入って来ないようだった。
+++
「お先に……って。寝てるのか?」
僕がお気に入りのブルーのバスローブを着て外に出てくると、反応がない。無視されただけかと思ったが、黒い影が静かにソファーに座っているのが見える。
コートと装備を外していたところまでは見ていたが、その後ソファーに座ったところで眠ってしまったらしい。普段ならちょっかいを出すところだが、リューもシャワーに入った方がもっと寛げるだろうと、身体を揺すってみる。
「リュー、寝る前にシャワー浴びた方がいいんじゃないか?一応身体を拭きはしたけど、また何かあったら……」
呆けているのか少しだけ目を開くと、無防備な顔でぼんやりと僕を見上げてきた。この顔もまた珍しいものの1つかもしれない。普段は近寄るだけですぐ目を開けて睨んでくるのだが、今は身体も意識も疲れているのだろう。
「……あぁ」
「眠そうだな。まぁ、眠ってたとはいえ、しっかりと休めていないだろうから」
何とか意識を起こそうとしているようだが、覚醒していないらしい。座ったままの体勢でぼんやりとしている。
(親切にしてあげたいけど、ここまで無防備だとな……)
僕は苦笑して、リューの目線に合わせるようにしゃがみ込む。ぼんやりとしたリューの視線がこちらを捉えると同時に、頬に手を添えてやんわりと口づける。
「ん……」
「……早く起きないと舌入れるぞ?」
「……」
「……もしかしてぶり返したとか?」
額と額を合わせてみるが、シャワーを浴びてきた僕の方が体温が高い。別に興奮状態になっているわけではなさそうだった。いつものリューと比べれば眠いせいで体温も高めかもしれないが。特段、気にしなくても大丈夫だろう。
「熱は特になさそうだ。で、そろそろ起きた?」
「……起きている」
「そうか。で、立てそうか?補助しようか?」
「必要ない」
リューが立ち上がる仕草を見せたので、僕も立ち上がると一歩離れて様子を伺う。リューは普段よりはゆっくりと立ち上がるが、一瞬フラリとしたので慌てて支えた。
「寝ぼけてるじゃないか。全く世話の焼ける……」
「……すまない」
「別に謝るようなことでもないけど、本当に1人で大丈夫なのか?」
リューは僕を見て頷くと欠伸を噛み殺し、眠いという空気は隠さないまま緩慢な動作でシャワールームへと向かった。気にはなったものの、僕も髪を乾かさないといけないのでまずはタオルで丁寧に水気を取っていく。
普段、僕は髪を上げているので気にならないが、少し伸びた前髪が目の前を塞いでいる。
今は明るめの茶にしているが、気分によって髪色を変えたりするので、あまり定まらない。
髪も短くはしないが、伸ばしっぱなしになると緩く束ねている。
(リューくらい短い方が楽そうだよな。でも意外とサラッとしてるし。謎だ)
リューの黒髪は固くてゴワゴワとしていそうなのにそうでもない。性格はあれだけ尖っていているのに髪は柔らかで、お手入れなんてしているところは見たことがない。
(僕は毎回、丁寧に櫛で解いて癖がないように綺麗にしてるのにな)
そういうことにさえ興味がないのか、褒められたことも一度もないのだが。それでもついつい見目を良く見せようとしてしまうのは、最早癖みたいなものなのかもしれない。
そんな誰も気にしないことを考えていると、リューがシャワールームから出てくるのが見えた。入ってからそんなに時間が経っていない気がして、ちらりと視線を流して確認する。
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