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35.手料理と晩酌と

リューはスプーンを手に取ると静かに食べ始めた。 このスープは切り落とされた肉が何枚も入っているが薄いので食べやすく、あっさりと食べられる。 後は余っていた葉野菜を適当に入れただけだが、貴重な調味料を使っているのでそこらでは食べられない味になっていると思う。 「不思議な味がする」 「不思議って……それ、褒めてるの?不思議な味っていうのは多分調味料で、父さんが遠い国の商人から送ってもらっているものなんだ」 「しょっぱいが、それだけじゃない感じがする」 「でしょう?気に入ってもらえたなら良かった」 黙々と食べているリューを見ていると嬉しくなる。食べ物にも何の執着も示さず、いつも最低限しか食べない。パンも齧ってはいるが、スープはあっさりと平らげてしかもお替りがあるかと聞かれた。 (何か、普通に嬉しい。表情には出してないけど、美味しいと思ってくれてるんだろう?) 僕ものんびりと美味しく食べることができたが、リューを見ながら食べることが最高のスパイスだと思う。 +++ 「ごちそうさまでした」 「……ごちそうさまでした」 僕が言うと、続けてリューも呟く。ギルド長に食卓での挨拶は大切だと習ったので仕方なくそれに習っているらしい。子どもの頃の暮らしがどういうものか詳しくは分からないけれど、想像するに家族が食卓を囲んで楽しくという訳ではないだろう。 (まぁ、僕もそんなに楽しかったかどうかと聞かれると微妙だけれど) 苦笑して食器を片付け始めると、リューも無言で手伝ってくれる。 僕が食器を洗い始めると、何を手伝うかと視線で問うので晩酌したいと告げて酒の準備をしてもらう。 「どこで飲む気だ?」 「ソファーでのんびり飲むよ。リューも飲むだろう?」 「いや、俺は……」 「少しだけなら大丈夫だって。付き合ってくれないか?」 俺が強請っても答えてはくれなかったが、葡萄酒とグラスを2つ用意していたのでその気は一応あるようだ。食器を洗い終えると、僕は買っていたナッツを皿に入れてソファーへと向かう。 リューは先にソファーに座っていた。寝に行かないのを見ると付き合ってくれるようだ。 「一応摘めるものも持ってきたから。じゃあ、早速」 僕は葡萄酒のコルクを開けて、トクトクとお酒をグラスに注いでいく。 リューには少なめに注いであげると、グラスをリューへと押し出した。 「眠くなるまでゆっくりと過ごそう。今日はそういう日なんだから」 「お前と一緒にいると身体がなまってしまいそうだな」 口では文句を言う癖にこういう場面では僕の意見を尊重してくれるようになったと思う。 前は拒否も多かったはずだが、些細な変化に今は喜ぶとしよう。 僕が乾杯を求めると、リューも軽くグラスを合わせた。 一口だけ舐めるように口だけ付けると、リューは大人しくナッツに手を伸ばす。 「リューっていつ休んでいるのか分からないくらい、大体身体を動かしているし精神を尖らせている気がする。僕が夜更かしをしたとしても、夜も寝るまで何かしらしているし、早朝から訓練している。もっと休むべきだ」 「本当に尖らせているのならばそもそも眠らない。ここでは睡眠も取っているし、何がそんなに問題があるのか分からない。お前はいつもそうだ。訳が分からない」 リューがジッと僕を見る。その目は僕の心の内を見透かすような真っ直ぐな視線だ。 遊ぶということを知らず、常に戦いのことばかり考えている。 その割には僕のことを何となく気にかけている時もある。 僕も葡萄酒を愉しみながらリューを見つめる。その双眸がスッと細められたとしても、今はただもっと見ていたい。

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