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37.理解ができない<リューSide>
とりあえず怪我をしそうなグラスにかかったままの指を丁寧に外していくが、起きそうにない。テーブルに突っ伏した顔を剥がしてやると、ううん……と少し身じろぎする。
「……起きない」
思わず呟いてしまうくらいに何故か眠ったままだ。1人で全て飲み干してしまったようなので酔っているのは分かるのだが。
(どうしたものか。ソファーに転がしておくか、それともベッドに運ぶか)
どちらにしても体勢を変えてやろうとアルヴァーノの脇の下に手を入れて身体を引っ張りあげる。慎重にでもなく大胆に動かしたのだが、身体の力は抜けきっていて重い。
「いい加減、起きて動け……っ」
ズル、と身体を引っ張り上げてソファーに一旦寄りかからせる。そこで漸くアルヴァーノが少し目を開いた。
「んー……誰?」
「俺の他に誰が見えるのか教えて欲しいものだが」
「その声は、リュー?リューかぁ……」
寝ぼけているのかふわりと笑いかけるが、また倒れかけるので仕方なくリューライトもソファーに座って身体を支える。
「ここで眠るのか、ベッドで眠るのか。どちらにしても一旦起きろ」
「起きてる、起きてるよぉ……」
リューライトは長い溜め息を吐いた。いわゆる酩酊状態だ。問答無用でベッドに転がせばいいかと思い直しアルヴァーノの首へと腕を回すと、甘えるようにリューライトの胸にころんと頭を載せてくる。
「俺は……リューと一緒にいたい。リューのことが知りたい。誰よりもリューのことが……」
「分かったから掴まれ。お前を運んでやるから」
「バディだから、じゃなくて……俺のこと、もっと見て欲しい……」
赤く染まった目元で訴えるように甘ったるい声でリューライトに告げるアルヴァーノの声が、リューライトの耳にも届く。
「そういうことを色々なヤツに言うのがやり口なんだろう?俺にまで言わなくとも構わない」
「そんなこと、言わないで……言わないで、欲しい……」
甘えるような声色なはずなのに、手は震えている。酔ったものの戯言なはずなのに、リューライトはその言葉から渇望のような何かを感じる。
(言わないで欲しい?何を?)
「……」
「俺のこと、そんなに嫌い……?」
見上げるアルヴァーノの顔が、表情が。
戯言だけではない、何かを訴えかけてくる。
(一体何なんだ……どうしてそこまで俺に拘る?)
リューライトが言葉に詰まっていると、今度は急に瞳を潤ませる。普段であればそれも武器の1つなのかもしれないが、今のアルヴァーノが悲しそうに流す涙は――
「……嫌いという訳ではない」
自然と言葉が紡ぎ出された。無意識に口を開いただけだが、リューライトは気づけばそう告げていた。
「……本当?」
「本当に嫌悪するのならば、俺はここにいない」
「そっか……なら、いいんだ。それなら、良かった……」
アルヴァーノは安心したように微笑むと、泣きながらまた目を閉じてしまった。
(一体何だったんだ今のは……理解できない)
アルヴァーノとのバディ関係は悪くないと思っているのは確かだ。手を抜いているようでこちらの指示には的確に従うし、器用に後方支援もこなしている。
だからこそこのまま関係を維持している訳なのだが。
(俺に何を求めているのか、良く分からない。何故好きか嫌いかを気にする必要がある?この関係性は例え気が合わなかったとしても、依頼を素早く解決できる組み合わせならば問題はないはずだ)
「お前の言う、好き、というのは……」
リューライトはまだ、その感情の意味を知ることができなかった。
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