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第2話 出会い Ⅰ

「きゃぁぁぁぁぁ!!!」 仕事を終えた人々が行き交う時間、東京のアリーナホールはむせ返るほどの熱と歓声に包まれた。 「以上、seed(シード)でした!」 「たつきー!まきー!」 深緑色と若草色のペンライトが会場を覆いつくしている。 ゆらゆらと揺れる様は、まるで木々の葉が風に吹かれているようで幻想的だ。 「みんなありがとう。愛してるよ。」 樹の投げキスに会場は更に沸き上がった。 「樹、おつかれ!」 ステージ裏に入ると 青葉(あおば) 真生(まき)は嬉しそうに抱きついてきた。 「うん、おつかれ。」 優しく抱き返し答えた。 真生の突然のスキンシップにはもう慣れたものだ。 「樹、最後のとこ転びそうになってたでしょ。歳じゃない?」 真生はにやにやと意地悪く笑っている。 「そういう真生こそ、歌詞1か所間違えてただろ。」 つん、とデコを小突く。 「わ、ばれてたの?ごまかしたのにー。」 「当たり前。」 今度は頭を撫でると、真生はもっと、とねだるように樹の胸に押し付けた。 ⸺よかった、今日も上手くいった。 樹は誰も知らないところでそっと胸を撫で下ろした。 「二人とも、お疲れ様。」 真生と談笑していると、マネージャーの 坂口(さかぐち) 壮馬(そうま)がタオルと水を持ってきた。 「あとはアンコールの合唱だけだから、それまで休んでなよ。」 「サンキュー坂ちゃん!」 「坂口さん、だろ。」 坂口は樹より歳上なこともあり、優しく落ち着いた性格だ。 真生の 坂ちゃん 呼びも快く受け入れている。 真生はまだ19歳なので弟のような感覚なのかもしれない。 「あと、社長が話があるから事務所に寄って欲しいって。終わったら車で送るね。」 「…了解。」 社長という言葉を聞いて一瞬ドキッとしたが、すぐに頷いた。 ⸺…一ノ瀬事務所の社長、一ノ瀬(いちのせ)あさひは30の時に元社長である父親を亡くした。 それはあまりにも突然な出来事で、事務所は倒産の危機を迎えた。 しかし、彼女には審美眼があった。 次々と町行くイケメンをスカウトし、デビューさせていった。 こうして事務所は危機を乗り越え更には過去最高益を叩き出した。 樹は、彼女にスカウトされた一人だった。 「来たか。」 ドアが開く音を聞き、一ノ瀬は書類から顔を上げた。 「社長、お久しぶりです。」 事務所が大きくなった事により、多忙な社長と会う機会は激減していた。 「今日のライブはどうだったんだ?」 二人は口々に述べた。 「アリーナ広くて最高でした!」 「今までで一番の盛り上がりでしたよ。だいぶ認知が広まったようです。」 「そうか。」 ⸺seed、1年前にデビューした二人組の男性アイドルユニット。 担当カラーは若草色、元気で笑顔がとにかく可愛い19歳 青葉真生。 担当カラーは深緑色、大人の余裕を見せつつ面倒みが良い22歳 宮本樹。 そんな二人の関係は正に先輩後輩のようで、去年大ヒットした映画の主役と当て馬役にぴったりだった。 映画の主題歌も担当し、意外にも力強く歌う真生とハイトーンを綺麗に歌い上げる樹のギャップに人々は驚き、凄い勢いで認知が広まっていった。 「はまり役の仕事がもらえた事に感謝するんだな。だが、油断はするなよ。」 「わかってます。」 一ノ瀬は頷き、机の上に置いてあるディスクを二人に渡した。 「次のシングルの曲が決まった。」 「やったー!」 思ったよりも早い新曲に二人は心を踊らせた。 「来週MV撮影をする。今週中に振り付け練習もしておけよ。」 「え、それは流石にハードスケジュールすぎません?」 真生の顔が曇る。 「しょうがない、売り出し中だからな。どんどん認知を貰わないと。」 樹は落ち着いた口調でなだめたが、内心凄く焦っていた。 やばい、振り付け早めにやっておかないと。 昔からダンスはあまり得意ではなかった。 社長の話はそれだけのようだ。 まだぶつぶつ文句を言っている真生をつれ社長室を出ようとした時、 「まて。」 呼び止められた。 「樹は残れ、まだ話がある。この間の件だ。」 「!」 ドクンと心臓が鳴る。 確かに新曲発表をわざわざ社長がする必要はない、何かあるのではないかと思っていたが とうとう来たか。 「…わかりました。」 樹は顔を強張らせながら頷いた。

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