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第11話 種をちょうだい
「モクレンは、神様は僕のものなんだからね!」
もう一度そう叫んだら、お姉さんたちがポカンって顔で僕を見た。
「いま、神様って言ったわよね?」
「神様って、本当に?」
「わたし、神様なんて見たことないわ」
「でも、このいい匂いは普通の雄じゃないわ」
お姉さんたちがコソコソ話をしている。コソコソ話しているけど目はこっちを向いていて、陸から離れようとしない。駄目って言ったのに諦めてくれないなんて、どうしよう。
「『モクレンは僕のもの』か。うん、いいね、それ」
「モクレン?」
僕の背後に立ったモクレンが、両腕を僕のお腹に回して抱きしめた。顔を上げると、僕を見下ろしながらニコニコ笑っている。
「まそらが言うとおり、俺はこの子のものなんだ。ごめんね」
モクレンがそう言うと、コソコソ話していたお姉さんたちが一斉にモクレンを見た。
「まぁ、そんな子どものどこがいいのかしら」
「わたしたちのほうが、ずっと上手よ?」
「ニュルッとして気持ちがいいのよ?」
「わたしたち全員で気持ちよくしてあげるわ」
お姉さんたちの言葉にモクレンが困った顔で笑う。
「うーん、乱交の趣味はないんだよね」
「あら、本当にわたしたちのほうが上手なのに」
「とっても気持ちよくしてあげるのに」
「海の中でも陸の上でも、どちらでもできるのよ?」
「だから、俺はしないよ」
モクレンははっきりと「しないよ」って言っているのに、お姉さんたちは「まぁ、もったいない」って言いながらモクレンを見ている。あの目はやる気満々のお母さんと同じ目だ。そんな目でモクレンを見るお姉さんたちに、僕は無性に腹が立った。
「まそら。ちょっと質問なんだけど、この人たちは何かな」
「たぶん、ネレイデスのお姉さんたちだと思う」
そう言ったら、お姉さんが「そうよ」と答えた。別のお姉さんが「美人姉妹で有名なの、知ってるでしょう?」って笑っている。
「ネレイデスか。なるほど、ということは」
隣に立ったモクレンが、僕のほっぺたにチュッてした。
「俺にはまそらがいれば十分。だから、きみたちは必要ない。これ以上うるさくするなら月の番犬や毒の大蛇を呼ぶことになるけど、どうする?」
モクレンが話し終わるのと同時に、すごい音がしてびっくりした。キーッていう聞いたことがないような鳴き声で、お皿やコップみたいな硬いものを擦り合わせたような音に似ている。
「なんてことを言う雄かしら!」
「わたしたちが相手をしてあげるって言ってるのに!」
「番犬だなんて、とんでもないわ!」
「毒蛇だなんて、とんでもないわ!」
「もういいわ!」
「こんな雄なんて、いらないわ!」
急に怒り始めたお姉さんたちは、尾びれでバシャバシャ威嚇してから遠くに泳いで行った。
「これで、もうあの姉妹たちはここには来ないんじゃないかな」
「本当に?」
「おそらくは。彼女らの恐怖と憎悪の対象を口にしたからね」
「よかった」
モクレンは僕のものなのに、本当にしつこいお姉さんたちだった。僕がぷりぷり怒っていると、モクレンが「どうかした?」って顔を覗き込んできた。
「だって、モクレンは僕とだけえっちをするのに、お姉さんたちがしつこかったから」
「ははは、そうだね。俺もまそらとだけえっちできれば十分だよ」
「絶対だよ? モクレンの種、僕以外にあげちゃだめだよ?」
あれ? モクレンが少し困った顔になった。
「まそらがほしいのは、俺の種だけ?」
「どういうこと?」
「種以外はいらない? 種さえもらえれば俺は必要ない?」
モクレンがコテンと首を傾げて僕を見ている。
僕はモクレンの種がほしい。でも種さえくれればいいのかって聞かれたら、そうじゃない気もする。だって、僕はモクレンの種だからほしいんだ。それに、もし卵を産んだとしてもきっとすぐにモクレンの種がほしくなると思う。ううん、絶対にそうなる。
(そういえば、お母さんがいつもお父さんたちに言ってたっけ)
お母さんは、どのお父さんにも「あなたがほしいの」と言っていた。てっきり種がほしいのかと思っていたけど、お母さんは「種」じゃなくて「あなた」って言っていた。
「そっか、僕、わかった」
「わかったって、何が?」
「僕ね、種もほしいけど、でもモクレンの種じゃなきゃ嫌なんだ」
「うん」
「でね、種もほしいけど、でもモクレンもいなくちゃ嫌だ」
モクレンがいない部屋を思い浮かべたけど、うまく想像できなかった。前は一人ぼっちでも平気だったのに、また一人ぼっちになるのは嫌だ。
「僕、モクレンとずっと一緒にいたい」
ずっと一緒がいい。つまらなくないし、嬉しくて楽しいことがたくさんあるからモクレンと一緒がいい。
それにモクレンとするえっちはすごく気持ちがよかった。だからたくさん種がほしくなる。これは僕一人じゃ絶対にできないことだ。
(……あれ?)
モクレンとするえっちなことを思い出したらお尻がムズムズしてきた。ムズムズして、お尻の奥がキュンキュンする。
「……あ」
「どうしたの?」
「お尻から、何か漏れた」
(もしかして、お漏らし……?)
お尻の中までちゃんと洗ったから、漏れたのは種じゃない。ってことは、お漏らしかもしれない。これ以上漏れないようにお尻に力を入れたら、どんどんムズムズしてきた。お腹の奥がキュンキュンして、ますます何かが漏れてくる。
もしかしたら何かの病気かもしれない。僕たちは病気にならないけど、絶対にならないのか僕にはわからない。
「モクレン、僕、病気になったかもしれない。お尻、見て」
もし病気でも、モクレンならきっと治す方法を知っているはず。見てもらえば病気がどうかわかる。そう思って服の裾をめくってからパンツをグイッと膝まで下ろした。そうしてモクレンのほうにグッとお尻を突き出す。
「ねぇお尻、変になってない? 何か漏れた気がするんだけど、これって病気?」
振り返ってモクレンを見たら、どうしてか真っ黒な目が大きくなっていた。
「モクレン?」
やっぱり病気なんだろうか。
「僕、やっぱり病気?」
「……いや、病気じゃないよ。これはたぶん、発情期的な何かじゃないかな」
「はつじょうき?」
「ええと、すごくえっちなことがしたくなるとか、卵を産みたくなるとか、そういう状態に体がなってるってことかな」
よかった、病気じゃなかった。それでもお尻がムズムズして気になった僕は、右手でお尻を触ってみた。
「ぬるぬるしてる」
お尻の穴を触ったらヌルヌルした。モクレンがえっちなことをするときに使うものと同じくらいヌルヌルしている。もう一度触ってから指を見たら、ヌルヌルテカテカした液体が付いていた。
「……知らないからこその痴態なんだろうけど、どんなAVより強烈だな」
「モクレン、ねぇ、これなぁに? 病気じゃない?」
「それは分泌液だよ。これだけ出ていれば、もうローション、ええと、ヌルヌルのを使わなくてもえっちなことができるっていう証拠だ」
「それって、いいこと?」
「うん。まそらの体に、俺の種を貯めることができるようになったってことだと思うよ」
じゃあ、もう卵が産めるってこと? そう思ったら、またお尻がムズムズしてヌルヌルが漏れた。
「モクレン、僕に種、ちょうだい」
種がほしくて我慢できない。お尻を触りながらそう言ったら、顔を真っ赤にしたモクレンが鼻と口を押さえてしゃがみ込んだ。
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