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第4話 抜け殻
――とあるビルの一室
冷たい床に、首輪を着けた琥珀 の痩躯 がうつ伏せに横たわる。
裸の体に、誰かがとりあえず被せたであろうタオルが1枚ハラリと乗っていた。
ぐったりした様子で動かない。
その横に、男が2人いた。
ちょうど服を着ている最中らしい。
「あー最高だった。男のシュミなんてねぇけど、こいつはなんか別だな。おい、琥珀、生きてるか?」
琥珀の小さな尻を揺するが、反応は無い。
そのまま横たわる琥珀の背に跨 り、顎 を支えるようにして持ち上げた。
「……う……うう」
背中を反らされて苦しいのか、小さな呻 きが上がる。
「俺らが言うのも何だけど、大変だねぇ、体で稼がなきゃなんねぇってのも。暇さえあれば、こうして俺らみたいなのも相手してよぉ」
「ま、いーんじゃねぇの。そのための犬なんだから」
男たちは琥珀を仰向けに寝かせ直して、泣き腫らしたあどけない寝顔を眺めた。
タオルを取り払うと、精液に塗 れた力のない性器が顔を出す。
「……こんな貧弱で持つのかねぇ。ちょいと愉 しんだ程度でバテちまってるぜ」
そう吐き捨てながらも、ウェットティッシュを取り出して、琥珀の躰を丁寧に拭 っていく。
「いつも朝から晩まで相手してっからだろ。ってかコイツ、19歳……にゃぁ見えねーよなぁ」
「ああ。上も下も子どもみてぇ」
両胸のピンクの小さな突起に優しく触れる。
まだ熱を帯びて、少し腫れていた。
19歳。それが、紛れもなくこの琥珀という少年の年齢だった。
『少年』と称すには、些 か際どい年齢ではあるが、同世代と比べ明らかに発達の遅い未熟な体が、そう呼ばれるに相応しい幼さを孕んでいた。
男の腕が下部へと移動し、躊躇 いなく股間を拭きあげる。
裏筋、先端と進んだところで、琥珀の体がピクリと跳ねた。
「……んう……うぅ」
目を閉じたまま微 かに反応をみせる。
「なんつーか、柚木 さんもコイツが来てから絶対楽しんでるよな。活 きがいいやつほど泣かせたいとか言ってさ」
「あー、まあそれは分かるわ。見てっとなんか意地悪したくなるよな」
「ドSかよ」
琥珀の膝を抱え、後ろの穴を拭いていく。
ゆっくりと襞 をなぞると、小さく体が跳ねた。
「……あ……あうッ……はう」
ウェットティッシュの冷たさが気持ちいいのかくすぐったいのか、琥珀の表情が緩み、甘い喘ぎが漏れた。
「……寝てる方が素直だな」
男たちが笑う。
まだ柔らかい穴が、何かを求めるようにヒクヒクと動いた。
男はそのままゆっくりと穴の中を拭った。
ツプン――
「……?ふぁ……ん?」
まだ涙が残るとろりとした瞳がぼんやりと開いた。
「お、お目覚めか?そろそろ戻んねぇと。夜にはお前返せって言われてんでな、立てるか?」
男たちは、自力で起き上がることのできない琥珀の体を床から引き上げる。
それはまるで抜け殻のように、軽々と持ち上がった。
(――やっぱり会えるわけないか)
本谷 は、暇さえあれば繁華街で人間観察するようになっていた。いつも大体同じ大通り沿いのカフェで、人々の往来を眺めた。
今日も出勤前にこうしてコーヒーを飲みながら観察中だ。
(はぁ、これじゃあ普段の仕事とそんなに変わらないじゃないか)
タイムリミットが迫り、慌てて店を出た。
出勤後、監視業務中にふと、少年が唯一顔を上げて眺めたオレンジ色の花の写真が目に留まる。
あの時、少年は一体この写真に何を見たのだろう。
それは、救いか、恐怖か。もっと違う何かか……。
アートに関わる者の性 なのか、鑑賞者の自由で率直な感想をつい知りたくなってしまう。できることなら、是非とも直接聞いてみたい。
それから、怯えた様子や他の男たちとの関係も、全てが謎だらけだ。
まるで自分以外の全てを敵だと認識しているような様子。
何が少年をそこまで追い詰めるのだろう。
少年の身を案じるとともに、本谷にはもう一つ湧き上がる感情があった。
それは、写真と対峙した少年が、あまりにも美しいと思えたこと。
触れたら簡単に壊れてしまいそうで、だけど惹きつけられる。少年の放つオーラの全てが、鮮烈に脳裏に残っていた。
(きっとこれが、一目惚れってやつなんだろう)
あの日から、他のことが何も手につかず、抜け殻になった自分がいるのだ。
できることなら、もう一度会いたい。
本谷は心の中で強く強く願った――。
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