9 / 56

第9話 振動

――おはよう、琥珀(こはく)。入ってんの、分かるか?」 (……?) 初めて耳にする低い声が頭の上で響いた。 ゆっくりと(まぶた)を持ち上げてみるものの、意識はまだぼんやりとしている。 薄明るい部屋の、知らない天井。柔らかい布団。 朝霧琥珀(あさぎり こはく)は、自分で着た記憶のない紺色のパジャマを(まと)い、ベッドの上で仰向けに寝ていた。 「ほら、お前の中、感じるだろ?」 まだ輪郭のはっきりしない視界の中で、その声の主を見つめた。 傍にいたのは、逞しい体つきで黒髪のオールバックがやたらと似合う男。 年齢はよく分からなかったが、落ち着いていて、30代後半くらいに思えた。 「って聞こえてねーのか?まあいい、コレでどうだ?」 低く、優しいトーンで男が話す。 大きな手が掛け布団を取り払い、琥珀の細い腰を(つか)んだ。 薄い体がベッドの上でゴロンと寝返りをうった。 「……んん」 うつ伏せのまま、かすかに身動(みじろ)ぐ。 男の方に目をやると、何かのリモコンがチラついた。 ヴヴヴヴヴヴヴ…… どこからか、(にぶ)い振動音が響く。 ヴヴヴヴヴヴヴ…… 「ココ、……な?」 男の骨張った太い指が、布越しに琥珀の小さな尻の上を()った。 「ッ!!」 途端(とたん)に不快な違和感と、小刻みな振動を自らの体内に感じ、体が跳ねる。 「……?!あ、ケホッ、ゴホッ」 声を上げようとしたが、喉の調子がおかしい。思わず咳き込み、顔を(しか)めた。 「目覚まし代わりのローターだ。残念だか、紐がねぇから自分じゃよっぽど頑張らねぇと取れねーよ」 突き刺すような男の双眸(そうぼう)が覗き込み、琥珀の白い頬はみるみる赤く染まった。 「お前の穴を(ゆる)めるのが俺の仕事だからな。意地悪してるわけじゃないんだぜ?」 男の表情は、心なしか穏やかにも見えた。 子どもをあやすように頭を撫でられ、思わず払い退()けようとする。 「ケホッケホッ、ゴホォッ!」 声が出せず、男の顔を(にら)んだ。 「大丈夫か?最初見た時から思ってたが、折角可愛いんだ。そんな怖い顔すんな。コッチはこんなに素直じゃねぇか」 「っあ!!!」 男の手が下股(かし)の性器を(まさぐ)り、思わず跳び上がる。 ガチャン! 金属音が鳴り、すぐに自分の首に巻きつく首輪と、その首輪に繋がった長い鎖に気付いた。 「……?!ひっ!あ……ああ」 ――グラッ 琥珀は(ひざ)に力が入らず、床にしゃがみ込んだ。体中の関節も、頭も痛い。 「こら、急に動くんじゃねぇよ。疲れてんだろ。声だってロクに出なくなってんじゃねぇか」 琥珀はふと、我に返った。 見慣れない広い部屋の、知らない間取り。 それもそのはず、自分は突如、連れ去られてここに来たんだ――。 『お披露目――』 そう名の付いた集会の場で見せしめに遭い、そのまま柚木(ゆずき)に散々甚振(いたぶ)られてから1週間。 その間代わる代わる組員らしき人達に接触したが、記憶が曖昧でよく思い出せない。 琥珀は、身の危険を感じ取り乱す。 「……は……んあッ、ゴホォッ!ケホッ、ケホッ」 「こらこら、落ち着けよ。喋ろうとすんじゃねぇ。この後浣腸して、お前の中洗浄してやるから覚悟しときな」 そういうと、男が一気に鎖を引き上げた。 「……んんッ!!」 琥珀の痩躯(そうく)が容易く引っ張られる。 大きな男の筋肉質な胸板の前に引きずられ、いとも簡単に太い腕に捕まった。 「ちょっと大人しくしてろよ?」 呆気(あっけ)なく琥珀の自由は奪われ、パジャマを脱がされていく。 「うわぁッッ……!何……!やめッ!ああッ!!」 白い肌が(あら)わになり、後ろ手に縛られる。 男は躊躇(ちゅうちょ)なく琥珀の体をそのまま抱きかかえ、ローターの出力を高めた。 「行くぞ」

ともだちにシェアしよう!