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第8話 発見
「――では、お大事にしてください」
展示会場から一番近い総合病院で、本谷は会計を終え、処方箋を貰った。
結局、左膝の怪我は出血が酷く、5針縫った。思いのほか重症で、本谷は落胆していた。
あとは隣接している薬局に寄って、抗生剤と痛み止めを受け取れば今日は終了だ。
重い足をゆっくりと動かしながら歩き始める。
(事故とはいえ、ちょっとぼんやりしすぎたな。あんなに心配かけて……何やってるんだろぅ……)
反省しながら歩いていると、ちょうど薬局の出入口で、体格差のある2人の男とすれ違った。
「ホ〜ラ、ちゃんと前向いて歩けよ」
「んっ、うう」
力無くうな垂れる一人を、もう一人が支えて歩いていく。
本谷は辛そうなか細い声を耳にして、思わず目を向けた。
「――!!」
本谷の胸に、衝撃が走った。
――あの、少年だ。
間違いない。あの骨格、あの横顔。
忘れることもない少年の姿が、目の前を通り過ぎた。
突然の出来事に、心臓の鼓動が高鳴る。
まさか、こんな所で。
こんなことって、あり得るのか?
喜びと焦りが同時に押し寄せる。
少年から、目が離せない。
「点滴して休んだんだから、もう動けるだろ?……しゃーねぇなあ。乗れよ」
付き添う大きな男が、悪態をつきながらも少年をおぶった。
その細い身体は、男の背中の上ですぐにぐったりと脱力する。
(――もう、見失いたくない。)
本谷は、怪我の痛みも忘れひたすら2人の後を追っていた。
病院からは、まだそんなに離れてはいない。かろうじて2人が車に乗ることはなく、気付くと繁華街の端のホテル街に着いていた。
そこは確かに繁華街に近い場所だが、本谷には全く縁のないエリアだった。
ホストクラブやキャバクラが軒を連ね、夜になるといかにもネオン街といった妖 しい眩しさを放つ場所。
近寄り難い場所だった。
男は少年をおぶったまま、とあるビルに消えていった。
ここは――。
周りの建物に紛れてはいるが、風俗店が複数入った雑居ビルだった。
看板だけでは一見して店の詳細がわからないが、少年には似つかわしくない、明らかに夜の店。
本谷の抱いていた不安が膨らんでいく。
(あの子は、ここに住んでいるのか?まさか、働かされているのか?)
何ともいえない動揺が胸をかすめながら、本谷はビルの前から動けずにいた。
――ヴー、ヴー
「ッ!!」
携帯が鳴り我に返る。
古河 リーダーからの電話だった。
「本谷、どうだった?大丈夫か?」
必死に心配する声に、自分を取り戻す。
「ありがとうございます。ちょっと縫ったんですが、もう平気です。痛み止めだけ貰って帰りますね!」
本谷はもう一度ビルを見つめ、不安を押し殺してその場を後にした。
(見つけた。見つけてしまった!……また、逢えた!!)
少年の目に自分が映らなくとも、認識されなくとも、この数週間ずっとずっと想い続けた人との一方的な再会。
もう一度会えたらいいなとは思っていたが、所詮無茶な願望だと心では分かっていた。
それがこんなに早く、2度目の出会いが訪れるなんて。
この店が拠点なのだとしたら、少年の生活範囲は自分とそう遠くはない。
本谷の目に、力が漲 る。
(店のことを、調べてみよう)
たとえそれが、関わってはいけない花園だとしても――。
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