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第12話 懇願

――窓の無い、密室。 「琥珀(こはく)、俺を見ろ」 手足を拘束され、口元をタオルで(おお)われたまま、琥珀は洋式トイレに座らされていた。 肛門にはまだ、つい先程無理矢理ねじ込まれたバイブが()さっている。 「辛いな?」 対峙している逞しい男は、樫原(カシハラ)という名前のみしか分かっていない。 目を覚ましてからずっと、琥珀の体はこの男が管理していた。 まだ数時間しか経っていないのに、体の全てを見られ、触れられ、その反応を観察された。 痛む腹とバイブの振動で、琥珀は自分を保てない。 もうまさしく座っているのがやっとの状態で、樫原に支えられた上半身には、冷や汗が(したた)った。   「ん、んんッッ!!!んんん!」 「苦しいか?そうだな。口のタオルだけは取ってやる。けどな?俺が今から教えるセリフでお願いできねぇと、出すのはずっとお預けだ」 「……ッ?!」 「――出させて下さい。ご主人様。ホラ、言ってみな。お前が店に出て困らねぇよう、今からトレーニングしとかなきゃな」 「ッッ!!!」 樫原が、琥珀の口を塞いでいたタオルを外す。 しばらく喋ることが出来なかったせいか、起きてからずっと辛かった咳はすっかり止まっていた。 「琥珀」 大きな手が、細い顎を持ち上げる。 その頬は恥ずかしさに赤面し、瞳を潤ませただただ樫原を見つめ返した。 「んな顔しても許さねぇぞ?ただの一言で済む話だろ。ホラ、言わねぇとずっと辛いぞ?」 「や……、いえな……や……」 大粒の涙がボロボロこぼれた。 「ダメだ。慣れろ。お前はこれから先、こういう行為を求められるんだ。それとももっと酷いお仕置きがされてぇか?辛いだろ?おねだりして早く出しな」 そう言った樫原が、体を屈めて薄い肩を抱きしめる。 琥珀は子どもがぐずるよう泣きながら、腕の中で樫原の胸に顔を擦り付けた。 そして、自分ではどうすることもできないと助けを求めるように、ゆっくりと目の前のシャツを噛んだ。 震える肩から苦し気に漏れる嗚咽(おえつ)と共に、涙と唾液が滴り落ちていく。 予想外の反応だったのか、樫原は一瞬目を大きく見開き驚いた。 そしてすぐに、やれやれとため息を()き、困ったように笑みを浮かべた。 「お前は……強情だな。そんな態度、余計に煽っちまうじゃねぇか。仕方ないから、今日はこのままこうしててやる。言えるな?」 樫原は琥珀の肩を抱いたまま、小さな頭をゆっくりと撫でた。 厚い胸板と太い腕に、琥珀の頭がすっぽりと埋もれる。 感じるタバコの匂い――。 体温が、あたたかい。 こんな時なのに、琥珀は何故か人肌の温度に安心していた。 酷くされて嫌なはずなのに、怖いはずなのに、なぜかそれだけじゃない。 琥珀の涙が、ふいに止まった。 わずかに震えながら、樫原の腕の中で絞り出すように声を出す。 「だ、だ……させ……、て……くださ…… ご……しゅ……じ……さま……ッッ」 「いい子だ―― バイブが引き抜かれ、()き止めていたものが一気に溢れ出す。 樫原は一層強く琥珀を抱きしめた。 排泄音が、生々しく響く。 「ぅう――!!!」 人前で痴態を(さら)し、屈辱に震える。 自分が自分でなくなる感覚が、怖い。 色んな感情がループして、琥珀の意識は混濁した。 「――ハァ……ハァ……」 全てを出し切ると、あんなに辛かった痛みが嘘のように消失していた。 息が上がり、疲労感が羞恥心と共に一気に押し寄せる。 「えらいぞ。やればできるじゃねぇの」 樫原は琥珀の頭をぐしゃぐしゃと撫で、その体を再び抱きかかえた。 「ウチじゃ排泄(はいせつ)プレイは基本だ。見たがる客も多いからな。毎回やるし、そのうち快感を教え込んでやる。ミヤビが待ってるな!戻るぞ」 琥珀はまだ頭の整理がつかず、ただただ唖然としたまま運ばれる。 ――毎回。  その言葉の意味を理解せぬまま、痩せた身体は、男の腕の中でうな垂れた。

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