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第15話 宿命

――や、嫌だってば!他のことで働くから、だからっ!」 琥珀(こはく)を押さえる樫原(カシハラ)の手に、力がこもる。 ベッドに拘束した体の敏感な後ろの穴に、バイブが押し入れられた。 「琥珀、もう決定だ。逃れられはしない。柚木さんに言われたろ、需要があるって」 「なんで?!嫌だ!やだよォッ!」 拘束され汗ばむ体を必死に動かすも、その抵抗は何の効力も持たない。 樫原が(さと)すように、琥珀の頭を撫でて言った。 「お前の借金を柚木さんが肩代わりした時点で、お前はもうこの組からは逃れられない。現実を見るんだ。お前が稼ぐには、これが一番早い。若いうちでよかったな。それでなくてもお前の容姿は、きっと相当な金になる」 琥珀は不服そうに、唇に力を込めた。 「に、逃げてやる……!絶対に!」 樫原がふと、手を止める。 「……いいのか?そんなこと言って。俺たちはヤクザだ。お前が逃げれば、お前の家族が一生苦しめられることになるだけだぞ。その前に逃げられたらの話だけどな」 「ッ!」 「柚木さんに聞いてる。お前、父親から虐待されていたってのは本当なのか?母親と、年の離れた弟もいたな。虐待は両親にされていたのか?弟はどうした?」 樫原の言葉に、琥珀の顔から血の気が引いていった。 反対に、体は次第に熱を帯び、呼吸が荒くなっていく。 質問のせいなのか、固定されたバイブのせいなのか、樫原は取り乱す琥珀の様子を観察しながら疑問に思った。 「自分を痛めつけたひどい両親なら、犠牲になってくれて構わないってか?おい、ミヤビ。そろそろ次の貸せ」 そう言って樫原は琥珀の尻からバイブを抜き取り、ミヤビから受け取ったもう一回り太いバイブに挿し替えた。 「あっ!ヤメ……!んんッ!あああ!」 異物を抜き挿しされる不快感と、肛門が広げられる刺激に、体が大きく反応する。 先ほどよりも腸壁が抉られる感覚が強くなり、恐怖で思わず涙が溢れた。 「ハッ、ハァッ…母さん…は…悪くない……」 掠れるような声は、樫原には届かなかった。 「まあ、お前の身の上話は今後ゆっくり聞いてやる。俺も最初の頃は仕込む度に怒鳴ってたんだけどよお、子どもを虐める趣味はねぇし、お互い疲れることはしたくねぇんだわ」 「う、うるさい!!俺は子どもじゃないッッ!!」 啖呵をきったつもりの琥珀の反抗に、樫原は一瞬ポカンと目を丸くして、(なだ)めるように答えた。 「……はいはい。これから毎日、とにかくだんだん太いのを咥え込ませて、痛くねぇよう拡げていくからな」 樫原の話は、その後もゆっくりと続いた。 これまで商品にされるために流れてくる男はみな、年齢・容姿はもちろん境遇も様々であったこと。 仕込み期間は最大2カ月で、その間ひたすら体を開発しながら、依頼があれば内部の構成員と性的接触が強制されること。 人によってすぐ店で使えた奴もいれば、時間のかかった奴もいたこと。 店に出せる見込みが無ければ相応の処分が待っていて、店に出された後も、指示が守れなければ凄惨(せいさん)な処罰が待っていること。 そして、一定期間働いた後、晴れて組の許可を得て抜けられた奴もいれば、知らない内に消された奴もいるということ。 「琥珀、俺が言うのも何だけど、あきらめて早く仕事だと割り切れ。考えようによっちゃ、気持ち良いこともあるって楽しむことだな。あと……」 樫原は身を乗り出して、琥珀の顎を掴み目を合わせた。 「自分だけが、特別と思うなよ」 一瞬、樫原の目の奥で鋭い閃光が見えた。 落ち着いた物言いの中で、たまに見せるこの男の凄みには、有無を言わせぬ強さがあった。 圧倒的な力の前に、琥珀はゴクリと唾を飲み、ただただ見つめ返すことしかできない。 いつまでも被害者ヅラするなということか。 結局のところ、自分の蒔いた種に責任を取れということか。 はっきりとした意味は分からないが、自分にはもう選択の余地どころか、拒否権すら無い事だけは分かった。 「――まあ、俺が上手く仕込んでやるよ」 樫原はふいに優しいニュアンスでそう告げると、琥珀の顎から手を離し、緊張で硬くなった体に布団を掛けた。 身動きの取れない琥珀をそのままに、立ち去る素振りを見せる。 「ま、待って!コレは?抜け!解けー!」 危機感を感じた琥珀は、とにかく必死に呼びかけた。 「……ハァ、そうだな。まずは口の聞き方からだな」 呆れたようにそう言うと、樫原は琥珀の尻に挿さったバイブの出力を強くした。 「んああっ!!」 「ちょっと甘やかした俺が馬鹿だった。敬語が使えるようになるまでお仕置きだ。俺たちは仕事があるから、夜までそうしてな。行くぞミヤビ」 「ハーイ♪じゃ、またね琥珀ちゃん♪」 「…やっ!!待っ!」 電気が消され、バタンとドアが閉められると、薄暗い部屋がぼんやりと浮かび上がった。 ベッドに取り残された琥珀は、拘束された体で身動(みじろ)ぎながら、ただひたすらバイブの刺激と戦うしかなかった――

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