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第17話 記憶
ヴヴヴヴヴヴヴヴ…
「……ん……ハァ、ハァッ」
日が落ちて真っ暗になった部屋に、鈍い機械音が響き、苦しげな吐息が重なる。
ベッドの上で仰向けに拘束されたまま、肛門に固定されたバイブ。
ひとり放置された琥珀 の顔に、涙が伝った。
手足が動かせず、身を捩 ったところでバイブを引き抜くことなど到底できない。
機械的な刺激だけが、リズムを変えずに責め立ててくる。
今が何時で、どれくらいの時間が経ったかも分からない。
こんな目に遭っても、萎えるどころか先走りをポタポタと流して張り詰める性器が憎い。
バイブの強さは相当なのに、欲しい所に当たらないせいで、もどかしさだけが募っていく。
「……イきたい……うう……あ……」
最初こそ助けを呼び続けてみたが、自分を救いに来てくれる者どころか、部屋の前を人が通る気配すらなかった。
バイブから意識を逸らしたいのに、一度反応してしまった全身の神経がそれを許さない。
今すぐ自分で性器を扱 いて、楽になりたい。その考えばかりが永遠にループした。
(は、早く……帰ってき……て……)
夜になれば、またあの男達が戻ってくるはず。
琥珀の脳裏に、樫原の太い腕が浮かんだ。
胸に強く抱きしめられた時の、温かい体温が蘇る。
惨めで汚い姿を晒しても尚、頭を撫でてくれた厚い掌 。
「……ッッ?!……ひあッ!!」
思い出した途端、下半身がドクンと大きく脈打ち、制御できない性的興奮が一気に込み上げる。
琥珀はそのまま、絶頂してしまった。
「……ハァ、ハァ……ッう……ハァ……」
瞼が重くなり、バイブの音が次第に遠ざかる。
琥珀はそのまま、眠りについた。
「――琥珀!!来てたのね!待って、あなた今どこで何してるの?アパートは引き払ったって、どうしたの?何があったの?!」
荷物を纏 めていざ家を出ようという時に、外からやって来た、慌てる女性。
少し険 しくそれでいて優しい声が、必死に自分を呼び止める。
「もう行くよ母さん。大丈夫!ちゃんとバイトもしてるし、先輩のとこでお世話になってるだけだから。唯斗 に宜しくね。また遊んであげるからって言っといて」
琥珀は静止を振り切って、落ち着いた声で告げた。
音信不通で気まぐれにしか帰らない奔放息子と、それを案じる母親の会話だった。
「次はいつ帰ってきてくれる?!お義父 さんだって、ずっと心配してるのよ」
お義父 さん――。
その名前を耳にして、琥珀は一瞬動きを止めた。母親に背を向け、唇を噛む。
「そんなこと、ないよ」
怒りに似た哀しみを押し殺し、琥珀は静かに否定した。
すぐに明るく取り繕い、笑顔を向ける。
「俺は俺で楽しくやってるからさ!母さんたちも3人でお幸せに!じゃあね」
「琥珀?琥珀!!」
バタン……!!
玄関を飛び出しひたすら走った。
自分はずっと、母親の顔を見る度にズキズキと胸が痛む。
だって義父 さんは、義父 さんは――。
「琥珀、また学校に行かなかったって?悩みがあるんだな。こっちに来て、膝の上に乗りなさい」
そうやっていつも親身に世話を焼くフリをしては、部屋に鍵をかけ、息子の口を塞いだ。
『躾 け』と称して大人の男に身体を弄 られ、許しが出るまで嬲られ続ける恐怖。
ひとりになって目を閉じると、いつだって父親との歪んだ関係に支配される自分がいる。
「……あ……嫌だ……義父 さん……」
パチン!!
「たっだいまー!琥珀ちゃーん♪」
「あーあー、ぐっちゃぐちゃじゃねぇの」
部屋の明かりが付けられ、眩しさに顔を顰 める。
賑わしい声がするが頭が回らず、琥珀はぼんやりと天井を見つめた。
「ハァ、ハァ、ゆ、め……?」
肩で息をしながら次第に意識が戻る。
喉の渇きと体の痛みが、途端に湧き起こった。
「お前、ドライでイッたのか」
感心する樫原の声に、羞恥が込み上げる。
自分の汗と涙とカウパー液で、体もシーツもぐちゃぐちゃだった。
「やっぱり後ろの才能あるな。でもまだ、辛いんだろ」
樫原の低い声が、耳を掠 める。
力強い目で直視されて、一度は果てたはずの性器が再び張り詰めた。
「どうして欲しい?」
そう問われ、琥珀は赤面した。
して欲しいことは、決まっている。でも、言えるわけがない。
戸惑う琥珀に、樫原が残酷に告げた。
「言えねぇのか?じゃあ気持ちいいのはお預けだ。そのまま寝てろ」
「……ッ!」
思わずハッとした。
またあの悪夢の時間を耐えることなど、考えたくない。
「いやだ!!も、もう無理!イキたい!!」
琥珀はついに、なりふり構わず懇願した。
「琥珀、敬語」
樫原に冷たく強制され、涙ながらに訴える。
「い、イ……かせてくださ……い」
ようやくそう言うと、樫原はミヤビに拘束を外させ、薄い体をベッドの上で引き寄せた。
子どもを抱くように抱 えると、バイブを抜いた代わりに、指で前立腺を押さえつける。
「ここだろ?」
同時に厚い掌 で陰茎を包み込み、上下に扱いた。
「うッッ!!あん!!あああああ!!!」
強すぎる刺激と快感に、琥珀はなす術 を持たなかった。
一気に絶頂し、溜め込んでいた精液が勢い良く放たれる。
「ふッ!ああ……あ……ハァッッ!」
「琥珀、覚えておけよ。その快楽を――」
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