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第21話 戒め

――今日は俺を客だと思って、お前からやってみろ」 冷めた表情で、樫原(カシハラ)が命令する。 「はい……」 琥珀(こはく)(うつむ)いたまま、素直に従った。 樫原に初めて挿入された夜から、琥珀の様子は大きく変化していた。 あれほど大抵のことに反発し、子どものように泣いて拒絶していたというのに、その面影はもうどこにも無い。 「……そう。……そうだ、上手いぞ。もっと大袈裟に音を出せ。肌も密着させろ」 「ハァ……ハァ……んッ」 「俺が触れても舌は止めるな。そのまま舐め続けろ」 淡々と指示を出す樫原の厚い胸板の上に、細い体が震えながら重なる。 琥珀は辿々(たどたど)しくキスをして、その屈強な首筋から胸にかけ、震えながら舌を()わせた。 その弱々しさがあまりに焦れったいので、樫原が胸の小さな(とが)りを()ねるてやると、すぐに困ったように顔を赤らめた。 「次は」 「……はい」 琥珀は少し狼狽(うろた)えてから、()()ずと体制を変えた。 樫原の顔の方へ尻を向け、腰を落とす。 客との雰囲気をより盛り上げるために教え込まれた、シックスナインの体制だ。 「……んんッ……ひあッ……!」 樫原は琥珀の尻を掴むと、無防備なピンクの穴をひと舐めした。 すでに糸を垂らしながら(したた)っている琥珀の先走りをローション代わりに絡め取り、こじ開けた穴を指でグチュグチュと掻き混ぜた。 「……んんんッッ!」 「琥珀、止まってるぞ」 「……あ……あ……ふぅッ」 快感に()えながら、琥珀はペロペロと樫原の性器を舐める。 苦しげに腰を揺らす姿がいじらしく、益々鳴かせてやりたくなるが、その様子があまりにも辛そうなので止めておいた。 快楽と羞恥の狭間(はざま)で葛藤しながらも、軽い愛撫だけで(とろ)けてしまう敏感で淫乱な体。 そうなるように仕込んだのは、紛れもなく自分だ。 「もういい。上に乗れ」 「……はい」 ――ギシギシと、ベッドが揺れる。 騎乗位の要求に対し、すぐに自分から(またが)ってきた琥珀に、樫原は思わず驚いた。 これだけは躊躇(ちゅうちょ)してできなかったはずなのに、今日は何故かすんなりとこなしてみせようとしたからだ。 「どうした琥珀?随分といい子じゃねぇか」 「……」 俯いたままの髪の間から、真っ赤に染まった頬がチラつく。 琥珀は息を吐きながら、樫原の上にゆっくりと腰を落とし、その苦しさに顔を歪めた。 「……ふッ……ああ……!」 ぎこちなく上下させ始めた腰を、樫原が大きく突き上げた。 ――暗闇の中で自分を(いまし)める。 光を失った琥珀の心は、ただ一人絶望の中にいた。 樫原に吐かれた言葉に、今でも胸を締め付けられる。 『勘違いすんじゃねぇ!こっちだって仕方ねェからやってんだよ――!!!』 そう叱られて、琥珀は改めて自分の思い上がりを恥じた。 組の中で、他の男たちからあまりに酷くされているせいだろうか。 モノのように扱われる自分のことを、少なくとも樫原だけは人として見てくれていると思っていた。 だけどあくまで自分はただの犬だった。 たまに優しくしてくれたのは、単なる躾けの一環というだけで、そこに意味なんて何一つなかったのだと思い知る。 考えてみれば、自分の境遇がどうであったって、この先どうなっていったって、樫原には何の関係もないことだった。 勝手に自分が連れてこられ、樫原は仕事だから仕方なく自分に構う、ただそれだけのこと。 (犬の自分に、人の感情なんていらない) 抱きしめられて、勝手に喜んでしまったのも、勝手に居心地の良さを覚えてしまったのも、全部独りよがりで迷惑な話だったのだから。 全てを諦めたら、自分のことがもうどうでも良くなった。 琥珀はふと、もう涙が出なくなったことに気が付いて安堵した。 このまま全ての感情を失って、早く楽になりたい――。 そう願って、ゆっくりと目を閉じた。 ――?! その身に感じる体重と、耳を(かす)める荒い息遣いに琥珀は思わず目を覚ました。 「よーし、いいぞぉ……」 布のようなもので視界が塞がれていて何も見えない。 分かったのは、知らない男がおそらく一人、自分に襲いかかっているということだけだ。 慌てて起きあがろうとするも、腕は縛られ、足は男に掴まれていて身動きがとれない。 「ああ、気づいちまったなぁ」 「……ッ?!……ムグッ」 ガムテープで口を塞がれ、両足を左右に割り開かれた。 一瞬の出来事に混乱し、ただただ頭を振って(うめ)く。 男は琥珀の着ていたパジャマのズボンを()ぎとって、小さな穴へ、勢いよく性器を押し入れた。 「思ったより狭いな……ッヤベェ」 「ッッん!!んーんー!」 琥珀は押し返そうと必死に足掻(あが)くが、そのまま強引に最奥まで突き上げられ、体を大きく()()らせた。 「――!!」 「この間は見つかっちまってヤリ損ねたからよぉ。ああ……お前の体が忘れらんなかったぜぇ」 男の言葉を聞いて、琥珀は以前にホテルで複数の組員に蹂躙(じゅうりん)された時のことを思い出した。 (あの時の男?!……そんな!!) 琥珀が軟禁されているこの部屋は専用の鍵があり、一般の組員は出入りできないはずだった。 樫原やミヤビが不在になる時間を見計らい、侵入してきたようだ。 「ったくお前は性奴隷なんだからよぉ。俺たちにヤられてりゃいーんだよ」 男は執拗に挿入を繰り返す。 琥珀は頭の中がグラグラし、抵抗できなくなっていた。 貫かれる度に、その苦痛が体力を奪う。 男の重みと、塞がれた口元のせいで息が苦しい。けれど、恐怖で震えていても、体温だけは徐々に上がっていく。 (嫌だ……やめて……やめて!!) 『お前に拒否権はねェんだよ――』 樫原に吐かれた言葉が、不意に(よみがえ)る。 ――そうだ、もう、逃げられない。 この恐怖からも、痛みからも、運命からも……。 足掻いたところで、いつも誰かに捕らえられ、力で押さえつけられる。 琥珀は(かろ)うじて意識を保ちながら、ひたすらに終わりを待った。

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