20 / 56
第20話 空虚
「次、俺な!」
「ッハ!堪 んねぇ。樫原 さんに仕込まれて、上手くなってんじゃん」
「おい早く代われって」
ホテルの一室で、数人の組員たちが琥珀 の華奢な体に群がる。
汗とローションで艶 めかしく濡れた肌は薄っすらと上気し、こぼれそうな丸い瞳が大粒の涙を蓄 え潤んでいる。
男たちはその体に次々と手を這 わせ、小さな胸の突起や尻の割れ目を弄 びながら、その熱く柔らかな口腔 を奪い合う。
――ホテルで組員たちの相手をする。これが今日の依頼だった。
柚木が付き人と共に迎えに来た今朝、我が儘を言って樫原を困らせた挙げ句、強烈な睡眠薬を飲まされて無理矢理ここへ運ばれてきた。
「ほら、ちゃんと咥 えろよ」
膝立ちしている足の力が何度も抜けて床に崩れ落ちそうになり、前髪ごと髪全体を持ち上げられた。
一際 喉奥を激しく突かれ、苦しさに身悶 える。
「前はあんなに抵抗したのに、やっぱり仕込みの成果だな。やっと自分の立場が分かったか?」
「コッチの方もよく解れてんじゃん」
「んーッッ!」
後ろの窄 まりをなぞっていた太い指がズプリと侵入し、琥珀の体が跳ねた。
グチュグチュとひくつく内壁を掻 き回され、思わず逃げようとするも、まわりの男たちに四肢を押さえつけられる。
「こんなにダラダラ溢 して、琥珀はいやらしいなぁ」
「エロい体にされて嬉しいんだろ?」
男たちが笑いながら琥珀の股間に手を伸ばした。先走りで湿った昂 りを握られ、執拗 に先端を指で刺激される。
「あっ!アンッ……!ムグッ」
男の陰茎が、琥珀の嬌声 を塞 いだ。
体の弱いところを一挙に責められ、琥珀は背中を仰 け反らせてビクビクと達した。
「……うぅぅ……」
堪 えていた涙が、小さな呻 き声と共にボロボロと流れ落ちた。
泣いたところで、このまま許されるわけもない。分かっていながら、恐怖と悔しさで涙が止まらない。
琥珀の泣き顔が、男たちの嗜虐心 を煽る。
「あーあー。勝手にイッていいなんて言ったっけ?お仕置きするかぁ?なぁ?琥珀ゥ」
床にうずくまった薄い体を無理矢理起こされ、ベッドにドサリと投げつけられた。
「うぅ……」
「なぁ、もうさぁ俺らだけで……コイツ、ヤッちまわねぇ?バレなきゃいいだろ?」
1人の男の提案に、他の男たちもニヤつく。
「こいつも欲しそうだし、全員で輪姦 そうぜ」
「や……やめ……放せッ!……あ」
「大人しくしてろよ。ほんとは突っ込んで欲しいんだろ?お互い気持ちよくなろうぜ?」
男の1人が琥珀に馬乗りになり、足を持ち上げ大きく割り開いた。
琥珀の体が恐怖で震え出す。
必死に抵抗するが、子どものように軽い体は男1人で易々 と組み敷けた。
「どうせ客相手にヤるんだろ?いっぱい練習しような」
男は硬く反り上がった陰茎を琥珀の穴に押し当て、グッと力を込めた。
「……あッ!……やっ!!」
――ドカッ
目の前にいた男が蹴り飛ばされて、琥珀の視界から突然消え去った。
「テメェら、死ぬか――?」
青ざめた男たちの前に、柚木 が立っていた。
拳銃を取り出して、その場の全員にチラつかせる。
普段の妖艶 な雰囲気はまるで無く、冷徹な視線だけがその場を鋭く突き刺した。
「琥珀を犯 っていいって誰が許可したよ……ああん?!テメェら全員ここから出て行け!!」
「は、はいぃッ!!!!」
柚木の怒号で男たちが慌てて部屋を出た。
琥珀は震えたまま、ベッドの上で固まっていた。
「チッ、好き放題されて汚ねぇなぁ。来いよ」
「――ふぅッ……あああ……んんッ」
柚木に強制されて、シャワーで体を流す。
琥珀はそのまま浴室の壁に押し付けられて、柚木の肉棒に激しく追い立てられていた。
「うッ!ああ!あッ……あッ……!」
擦れ合う度に上擦 った嬌声を上げながら、琥珀の顔が快楽に歪んでいく。
「も……やめてくださ……ああンッ!」
柚木は逃げようとする腰を強く引き寄せ、繰り返し何度も突き上げる。
時折り強引にキスをして、羞恥に身動 く琥珀の舌を何度も搦 めとった。
「本番 の練習の件は、樫原に伝えておいた。店に出るまでお前を犯 せるのは俺と樫原だけだ。帰ったらすぐ、抱いてもらいな」
「……え?!あ、ああ、あああああ!!」
柚木と同時に、琥珀は果てた。
息も絶え絶えのうちに迎えが来て、部屋へと戻された。
――ガチャッ
琥珀が深夜に部屋へ戻ると、樫原はソファでタバコを吸って待っていた。
「おう……帰ったか」
普段から淡々としている樫原。だが依頼の後は、肉体的にも精神的にも弱って帰宅する琥珀に対し、いつも決まって少しだけ優しく接してくれた。
初めのうちは、ひとしきり暴れたあと泣き続けて困らせた。
一晩中抱きしめられて、あやされたこともあった。
すぐに過呼吸を起こす体質を知っていて、落ち着くまで背中をさすってくれたこともあった。
いつだって決まって腕の中で、震える体を温めてくれた。
たまに与えらるその優しさに、琥珀はいつも少しだけ安心していた。
恥ずかしい仕込みも理不尽な依頼も、逃げ出したくて仕方がない。
けれど樫原の逞 しい腕の感触だけは、どうしてか嫌いにはなれなかった。
今日一日で受けた恐怖と辛さが、ふいに込み上げる。
まだ軋 む体に残る熱が、虐 げられた記憶を鮮明に呼び起こした。
意識を無くして倒れてしまう方が、まだマシだったのに。
「――琥珀ぅ、これからちょっと俺と初めてのことしようなぁ。そこに手ぇ付いて跪 け」
「……?!」
ドクン!と、衝撃が走ったのが分かった。
柚木の言葉が、頭から離れない。
「あー!クソッ!ダメだ!!早くしろよ!!」
突然カッとなって琥珀を押し倒した樫原が、下着ごと琥珀のズボンを押し下げた。
床にうつ伏せになった薄い体のまだ濡れている穴に、ローションの先を強引に押し込む。
「や……!樫原さん!待って!やッ!!」
これまで後ろを解す仕込みは散々されてきた。けれど、樫原自身を受け入れたことは一度もない。
「嫌です……こんなッ……やだッッ!!」
怖がって身を捩 る琥珀の腰を、苛立った様子の樫原は容赦なく掴 んで引き寄せた。
「柚木さんの命令だ!犬のお前は黙ってろ!」
太くて重い熱が、琥珀を強く穿 つ。
そこに優しさなどは無く、あるのは単なる仕込み役としての惰性だけだった。
「あッ!うわッ!ああああ!!」
「勘違いすんじゃねぇ!こっちだって仕方ねェからやってんだよ!!!」
声を荒げられ、琥珀がビクリと震えて固まる。
樫原はすぐに、冷めた口調で告げた。
「俺はお前の仕込みだけやってりゃそれで認められるんだ。店に出るまで、俺のためにせいぜい頑張ってくれよ」
琥珀は喘ぎながら、樫原の言葉を呑み込んだ。
今日1番の痛みが、無慈悲にも小さな胸を苛 んでいく。
唯一の拠 り所だった温かさを失い、空虚になった心がゆっくりと凍りついていった。
ともだちにシェアしよう!