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第30話 約束
ベッドの上に座ったまま、顔を見合わせ対峙 する。
「琥珀 、お前……それは流石に不憫 すぎるほど呪われてねぇか。逆にすげぇ」
勇気を振り絞って全てを話した琥珀に対する樫原 の感想は、最早感嘆めいていた。
「……?!そんな言い方、ひ、酷い!」
「あー、いや、悪 ィ。どんだけ不幸体質だよって思っちまってな……怒るなよ」
屈強で強面 の自分には、まるで無縁といえるストーリーの数々。
樫原は同情を通り越し、むしろ畏怖 の念さえ覚えた。
「まぁ要するに、お前が言いたい事も言えねーで、一人グズグス悩んでるうちにうっかりハメられて、おまけに最悪な形で捕獲されちまったって話だな」
「……そ、それは」
不本意にも否定のしようが無い結論に、琥珀は狼狽 えた。
「なぁ。お前、男の中にいたからイビられんだろ。もっとこう、あっただろ。女ばっかのホヤホヤした職場とか」
指摘された通り、男社会に苦痛を抱いてきたのは事実だった。それでも払拭できないトラウマの数々が、琥珀の脳裏をよぎる。
「うぅ……女の人は、昔からほっぺた触らせてだの、スカート履いてだの、化粧させてだの、写真撮らせてだの迫ってきて……すっごく圧があって怖い」
「結局オモチャなのな。まあ分かるぜ」
むしろ働くなら稼ぎのいいホストでもなんでも良かったろ……と言おうとした所で、いかにも幼稚な琥珀の見た目と、その漬け込まれやすさを思い、口を噤 んだ。
「お、俺……見栄張って、失敗したんです。会社に騙されてる事だって考えれば分かることなのに……自分で自分が馬鹿すぎて、うっ、ううぅ」
琥珀は堰 を切ったように泣き出し、情けなくて顔を隠した。パジャマの袖 いっぱいに、流れ落ちた涙の跡が滲 む。
「お前、人を頼るのが下手すぎだろ。自分が我慢すればいいって、それじゃお前が無駄に傷付くだけじゃねぇか」
「……うぅ……ひっく……う……」
「それでいいのか」
「……?」
「琥珀はそれで終わっていいのかって聞いてんだよ。このままずっと、我慢したいのか?!」
強い声が、琥珀の胸に突き刺さる。
「……や……やだ、嫌だよぉぉ。うわああああああん!」
樫原の問いに顔を上げた琥珀が、まるで子どものように嗚咽 を上げた。
無力で無防備な、危なっかしいこの生き物を、なんとかして励ましてやりたい。
樫原の腕が、薄い体を引き寄せた。
「……ったく、分かってるよ。お前は優しいから、大事にしすぎたんだろ。母ちゃんのことも、そのヤバい父ちゃんのことも。大変だったな」
刑事事件としての立件は意味が無い。そう警察が言ったのなら、他の機関を頼れば良かったのではないか。
そもそも警察から、そういった案内があるべきだったのではないか。
(まあ、相手の足がつかない時点で、民事で訴訟も不可能か……こいつができたことといやぁ、弁護士でもつけて自己破産がせいぜい限度だな)
「うう、ふっ……ヒック……ああああ」
樫原の腕の中で、琥珀はまるで全ての緊張を解いたように泣き崩れた。
誰にも言えず、辛さを一人堪 えてボロボロだった心が、樫原の温もりによって少しずつ癒えていく。
「琥珀、いいか?お前はもう、二度と一人で抱え込むんじゃねぇ。辛い時は周りを頼れ。迷惑かけちゃいけねぇなんて、そんなこと決めつけてんじゃねぇ」
「……うっ……うう……ふうっ……」
「俺の前で、勝手に我慢すんじゃねぇ。分かったな」
「……ッッ……」
「返事は?」
樫原が、琥珀の小さな両頬をつねった。
涙でベタベタの薄い肉が左右に伸び、その表情がふにゃりと歪んだ。
「……は、い」
「いい子だ。泣いたついでに、もうちょっと泣かせてやるよ」
――琥珀の視界が、グラリと半回転した。
「わっ!ああ、樫原さんッ!待って……仕込み……?!い、今から?」
突然大きな体に組み敷かれ、琥珀が驚いたように取り乱す。
「もう時間がない。琥珀、いいか、これが最後の仕込みだ。お前に本当の快楽を教えてやる」
樫原の瞳が、真っ直ぐに琥珀を捕える。
華奢な両腕をベッドに押し付けたまま、ゆっくりと口付けをした。
「……んッッ!ふぅッ……ん」
薄い唇に捻 じ込ませた舌で、ねっとりと歯列をなぞる。舌の動きに合わせクチュリといやらしい音が立ち、琥珀の頬が真っ赤に染まった。
「むッ!……んぐッ……ッハァ……んん」
厚い舌を小さな口の中いっぱいに入れてやると、苦しそうな声が漏れた。逃げようとする琥珀の舌を絡めとり、跳ね上がる体を無視して吸い上げる。
「んー!!んッんッ!はああッ!」
息ができずに苦しくなった体から、嬌声 が上がる。二度、三度と繰り返し、琥珀の目から涙が溢 れたところで労 うように頭を撫でる。
「琥珀、そのまま俺だけを意識しろ」
「い、いつもと違……う、俺……ヘン……だ」
キスだけで蕩 けた体を、パジャマを脱がせながら上から順に愛撫する。
琥珀が戸惑うのことは計算の内。今まで味わわせたことのない、強烈で濃厚な快感を一気に与え込んでいく。
「加減はしねぇ」
「んッ……ああッ……あッ……」
ヒクつく乳首の周りを、あえて外しながら舌を這わせて焦らすと、硬くなった下半身を隠すように両足を擦り合わせた。
「……うぅ……あッ……」
「琥珀、濡れてる」
その言葉に、ピクリと肩が跳ねる。
「……んッ!ひゃああっ!」
パンツにできた染みごと手で覆って握る。
すると、布に擦れた性器が脈を打って応えた。
「や……あッあッあああ」
焦らしていた乳首を甘噛みし、そのまま性器を少し扱 くと、それだけで琥珀は達してしまった。
「あう、樫原さ……ごめんなさ……」
あまりの早さに恥ずかしくなったのか、琥珀は顔を隠そうと必死に体制を丸めようとする。
「コラ。勝手に終わるな。まだこれからだ――」
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