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第32話 終始

まもなく閉場時刻が迫る展示会場内の一画で、本谷嗣巳(もとや つぐみ)は1点の作品の前に立ち尽くしていた。 今日はついに、写真展の最終日。 琥珀に惹かれるきっかけとなったオレンジ色の花の写真を前に、最後の時を噛み締める。 作品ナンバー38、タイトル『私を……』 (あの子を探して追いかけて……、色々なことがあったなぁ。まさか自分がこんなに陶酔(とうすい)してしまうだなんて) 出会った日から今日までの約2ヶ月、琥珀のことを想わない日はなかった。 もしもこのまま本当にまた出会えたら、その時自分はどうするだろう。 会って直接話してみたい(うわ)ついた気持ちの裏側で、膨らみきったこの熱を自制できるか分からない。 期待と同じくらい、不安が募った。 「――本谷くん」 「……ッ!」 いつの間にか背後に姿を現した女性の呼びかけに驚く。 「いい男が寂しそうにどうしたのかしら?ホホホ」 「西園寺(さいおんじ)先生!」 最終日の撤収を控え会場入りしていた先生が、にっこりと微笑んだ。 (めーたんの、おばあ様……!!) 「今回も無事終わるわね、ご苦労様。それと(めぐむ)のことも、どうもありがとうね」 「……私達のこと、聞いていらしたんですか?!」 「ええ。あの子ったら、本谷君をよっぽど気に入ったのね。友達になったこと、興奮して教えてくれたのよ」 ひょんな事から知り合った恵は、自分がお世話になっていた取引先の重役の孫という、何とも不思議な縁だった。 本谷は少し照れながら、先生に笑みを返す。 「私の方こそ、恵君に良くしてもらって、本当にびっくりしてますよ」 「あらあら、ありがと。恵ったら、本谷君とどこで出会ったか隠すのよ。男のロマンがどうとかで……」 「……!!ッケホケホ!ゴホッ」 「まあまあ、大丈夫?」 「す、すみません、大丈夫です……」 思わず吹き出してしまい、赤くなった顔を背ける。 「この写真、目を惹くわよね」 先生の言葉にハッとする。 結局最後まで解けなかった疑問を思い出した。 「先生、あの……。この花に惹かれる心理がもしあるとしたら、それは一体どんなものでしょうか」 本谷の問いかけに、先生は少し間を置いた。 「そうねぇ、本谷君はこのお花の名前、知ってるかしら」 「……?」 花のことはよく知らず、写真家の情報ばかりに気がいっていた本谷は少し躊躇(ちゅうちょ)した。 花びらの形状から、それとしか思っていなかったとある花の名前を答える。 「ただの百合……ではないのですか?」 「タイガーリリーよ」 先生はにこりと笑い、写真に近付いた。 「嘆きも、強さも、両方秘めている。どちらを受け取るかは、きっとその人次第」 「……?」 「あらあらごめんなさい。つい感覚的になってしまったわ。そろそろ時間ね、始めましょう」 展示会は盛況の内に閉幕し、すぐに撤収作業が始まった。 先生の言葉の真意を追求できぬまま、本谷は写真に一人別れを告げた。 「――さぁ琥珀。記念すべき初めてのお客様だ!特別優しく紳士的なお客様を当ててやったぞ。失礼の無いようお楽しみいただきなさい」 店長に両肩を叩かれ、プレイルームに取り残される。 朝霧琥珀(あさぎり こはく)は緊張でガタガタと震えながら、瞳に涙を蓄えていた。 仕込みの終了が言い渡されてまだ間もない今日、雑居ビル9階にあるこの店での勤務がついに始まった。 店長から改めて細かい説明を受け、いよいよ客を迎えなければならない。 (うう、怖いよぉ……) まるでホテルのスイートルームのような内装のこの部屋で、恐怖に怯えながらその時を待った。 「琥珀、お客様ご入室です。それではお客様、行ってらっしゃいませ」 アテンドが部屋の扉を開けると、高そうなスーツに身を包んだ中年の男性客が現れた。 扉が閉められ、2人きりになる。 「これは愛らしい!」 客の男は驚いたようにそう言うと、床に立ち尽くしている琥珀の頬を引き寄せた。 「まさに私の理想の美少年だ。なんて美しい!それに随分と若く見える。色んな子に入ってきたが、君には一際そそられるよ」 喜びに溢れ、興奮気味に男が言った。 「あ……ああ……、ふわあああああん」 琥珀は会話が始まるや否や泣き出してしまった。 「おやおや、どうしたんだい?!怖かったんだね。どれ、痛いことはしないよ。可愛い顔を見せておくれ」 樫原(カシハラ)にあれだけ仕込みをされたに関わらず、初めの挨拶から失敗する琥珀を、客の男は優しく励ました。 「ふッ、ああ……ヒック……うッ……」 「今日が初めてだそうだね。店長に脅されたのかな?こんな可愛い子の初日に当たれて光栄だよ」 「……」 元々人見知りな性格が(たた)ってしまい、琥珀は一言も喋れなかった。 「気負わなくていい。私が全てリードしてあげるから、私に(ゆだ)ねなさい」 「……?」 そう言うとベッドに寝かされ、まるで赤子を愛でるかのように撫でられた。 「琥珀くん、だったね。体も可愛いよ。気持ちいい所はどこかな?」 「あッ!」 男の指が乳首をゆっくりと愛撫し、次第に性器へと移動した。 逃げ出したい衝動を(こら)え、体を硬直させる。 「緊張してるね。大丈夫。優しくするからね」 男は優しくキスをして、琥珀の腰に腕を回した。 「あッ、ああ……あ」 「感度がいいね。まずは一度出してしまいなさい」 「あんッ……ひあ……あああ」 ゆっくりと、それでも確かに敏感な部分をとらえて、性器をじっくりと(しご)かれる。 「ひあッ、アン!ああ……ああン!」 次第に熱が込み上げ艶やかな喘ぎをもたらした。白い頬は赤く染まり、ピンク色の乳首が()がる。 涙で潤んだ瞳が、快楽に屈して(とろ)け出した。 「声も感じ方も、何から何まで可愛いじゃないか。そうだよ。そのまま気持ち良くなりなさい」 「あうッ!んああ!ああ……ふああッ」 「よしよし、いい子だ。さあ、イきなさい」 「――んんッッあああ!!」 琥珀は勢いよく吐精(とせい)し、ビクビクと体を震わせた。 「可愛いね。こっちの方はどうかな?」 「……ひあッ!」 男は達したばかりで脱力する体を他所(よそ)に、琥珀の精液で濡らした指を後ろの穴へと押し入れた。 「ふッ!んあああ!!」 「体も小さいし、こっちもやはり狭いようだね。でも柔らかくて、何より綺麗だ」 「あ、あうッ、ああッ!」 男の指で、グニグニと前立腺を刺激され、何度も体が跳ね上がる。 「少し早いが、もうたまらないよ。そろそろ私も気持ちよくしてもらおうかな」 「……あ……ああ」 「大丈夫、ゆっくり入れるから」 男の太い陰茎が、ギチギチと穴を掘り進むように肛門を押し拡げる。 琥珀は目を見開いて、侵入が深まるごとに体を反らせた。 「う……お、おっき……い……くるし……」 「おや、ようやく喋ってくれたのかい」 「あ、ああ……入って、く……る……うッ……ふうッ!あ……!!」 琥珀は動揺している内に、訳もわからぬまま貫かれていた。男の陰茎が全て入り切ると、その苦しさに悶絶した。 ヤダヤダと頭を左右に振るが、圧迫からは逃れられない。 「よしよし、苦しいね。今に慣れるからね」 男は穏やかに告げながら、腰を動かし琥珀の体を揺さぶった。 「や!あッ、んああ!あううッ」 「ああ、あまりに体が軽くて加減が難しいな」 優しく、それでいて深く突き上げられる度、琥珀の目の前には光が散った。 「君は可愛い。ほんとに気に入ったよ。さて、もう少しだ。私を楽しませておくれ」 「あッ、ああ……ふ、深……いッ」 「もっと感じたいのかい?ほら、どうかな?」 「い、あ……ああああッッ!!」 男はその後も琥珀の体をじっくり味わい、濃厚な時間を過ごした。 たった一人の相手で、敏感すぎる肉体は腰も立たないほどグズグズに()けた。 見ず知らずの男に抱かれる恐怖の中で、自分の心を置き去りにして快楽に溺れていく体。 「うぅ……樫原さ……ん、ミヤビさ……どこにいるの?」 帰りたくて2人の名を呼ぶと、再び目から涙が(あふ)れた。 それでも琥珀の今日は、まだ終わらない――

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